実はモデルガン誕生の地でもあった中田商店
ヘルメットからブーツまで扱い、“頭から下まで軍装品で揃えてもらいたい“、それが中田商店の基本コンセプトだが、初期の頃はアパレルがメインではなかったという。
「1975年頃まで中田商店はモデルガンの店でした。最初は1960年の貿易自由化をきっかけに海外製のおもちゃの鉄砲を輸入して大人気になったらしいんですが、その後、「弾が出ないレプリカピストル」のアイデアから生まれた『non-gun ノンガン』を販売したそうです」
ここに貴重な資料がある。
世界で初めてと言っても過言ではないほど、精巧で本格的な大人向けリアルトイを手掛け、先代が取材された時のものだ。
それはまだ、「モデルガン」という言葉さえなかった時代。先代・中田忠夫さんがいなかったら、日本のモデルガンは誕生していなかったかもしれない。
その後、中田商店は「ルガー」や「ワルサーP38」など様々なモデルを製造し販売。それら全てのNAKATA製のモデルガンは第二次世界大戦で使用された軍用レプリカモデルだったという。この頃からミリタリーへのこだわりがあった。
だが……。
「1971年にモデルガン規制(銃口を閉塞し、本体を黄色に着色する事)があり、工場を閉鎖しました。そして1975年のベトナム戦争終結時、先代が沖縄を訪れた際に米軍基地で大量の余剰物資の払い下げ品を見て、『商売的にはホビーよりも衣類など生活必需品の方が需要がある』と考えてサープラス(軍の放出品)をメインに販売するようになったようです」
その方向転換が功を奏したのか、ミリタリーファッションという新たな文化・流行を切り拓いていくことになる。
「戦争を忘れたい」そんな批判に立ち向かった先代の信念
こちらの写真を見てほしい。
上野に店舗を構えた頃のスナップ写真。店前で現代のコスプレのように軍服を着てポーズをとり、モデルガンをずらりと並べた一枚だ。一見壮観な光景だが周囲の店主たちは、眉をしかめた。
「当時(1965年頃)は、周囲のたちから『戦争なんか忘れたいのに何をしてるんだ!』と言われたそうです。もちろん、戦後すぐにリヤカーで軍服を売り始めた時もモデルガンを販売している頃も批判の声があったそうです」
ただ、先代の忠夫さんには信念があった。
「先代は、軍装を通して戦争の歴史を少しでも知ってもらいたいと常々話していました。『軍服を戦場で着るのではなく、街中で着てほしい』そんな想いでこの店を始めたんです。父は戦争映画マニアでもピストルマニアでもなく、歴史研究者でした。自ら集めた資料と販売しながら収集した商品で戦争博物館を作り、戦争防止に役立て後世に伝えたいと思っていたんです」
忠夫さんは4年前に91歳で他界。後を継いだ哲二さんは先代の意思を継承し、戦争防止資料館という形で父の功績を讃えたいと考えているが、簡単ではない。
ただ、『軍服を自由に街中で着てほしい』という先代の思いは、しっかりと受け継がれている。
「中田商店は適正な価格で販売することを心掛けています。ミリタリー用品の中には数十年後にプレミアが付く商品も多いため、お客様の中には2、3個まとめて買われる方もいるんですが、私はなるべく多くの人に安く買ってもらって、街中で自由に着てほしいと思っています」
2023年秋冬オススメの逸品はコレだ!
2023年秋冬ファッションのトレンドは『ミリタリーテイスト』らしいが、中田商店では昨年に引き続き、パーカーがよく売れているという。
常務の哲二さんに秋冬のオススメをいくつか紹介していただいた。
【セスラー M-1951 フィールドパーカー】
https://www.nakatashoten.com/contents/a-1951-n.html
「フードがついたこのタイプは、ザ・フーの名盤『四重人格』をベースに作られた1979年の映画「さらば青春の光」で若者たちが着ていたものです」
「それが最初のブームで第二次ブームは青島刑事!1998年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE」の時に、このパーカーの本物とレプリカを衣装部に提供しました。織田裕二さんが選んで着用したのはレプリカだったそうですが笑」
【アルファ CWU-36P】
https://www.nakatashoten.com/contents/al-553-vx31.html
「耐久性と耐熱性に優れたノーメックス調でアルファ社から今年5年ぶりぐらいに販売されたフライトジャケットです。現在、入荷したばかりの人気商品になります。2022年公開の映画『トップガン マーヴェリック』でトム・クルーズが着ていたフライトジャケットはこの「CWU-36P」なんです」
【ヘリコンテックス CLIMASHIELD LEVEL-7】
https://www.nakatashoten.com/contents/ht-71.html
「アメリカ軍のECWCS LEVEL-7を元にポーランドのヘリコンテックス社が作ったモデルです。中綿には洗濯機で洗える断熱素材『CLIMASHIELD』が使用されています」
ミリタリーファッションはなぜこんなにも長く愛されているのか?
長年支持されてきたミリタリーファッション。中田商店を筆頭に様々な要因があるとは思うが、一体何が人を惹きつけるのか?哲二さんに聞くとこんな答えが。
「アメリカ軍やNATO軍など、防衛予算で作られている軍服は営利目的ではないので質が良く丈夫にできています。生地もNOMEX(不燃繊維)、GORETEX(防水繊維)、PRIMALOFT(洗える断熱中綿)などが使用されている物が多く、長く使える点が魅力なのではないでしょうか」
もともとは確かに戦争のために作られたもの。生きるため、生き抜くために作られたジャケットでありパーカーである。そう言ってしまえばそれまでだが、それを認識した上でファッションを楽しんでほしいと哲二さんは語ってくれた。
一度、東京・上野の中田商店に足を運んでほしい。アメリカ、ドイツ、フランスを始め、中国、ロシアなど各国の軍装品が、ある意味無造作に並んでいる。
そこには国同士の関係も、敵対しているかどうかなどの政治的思惑も一切ない。国際問題を超越した最良のアイテムがただただ並べられている。
そこであなたは何を思うか?そして何を選ぶか?それはあなた次第。
取材協力:中田商店
文/太田ポーシャ