就任経緯別〜「内部昇格」35.5%、就任経緯で初のトップで「脱ファミリー」化加速
2019年以降の過去5年間で行われた事業承継のうち、前経営者との関係性(就任経緯別)をみると、23年(速報値)の事業承継は血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」によるものが35.5%に達した。
これまで最も多かった身内の登用など「同族承継」(33.1%)を上回って、事業承継の手法として初めてトップとなった。事業承継は親族間承継の急激な低下を背景に「脱ファミリー」の動きが加速している。
このほか、買収や出向を中心にした「M&Aほか」(20.3%)、社外の第三者を代表として迎える「外部招聘」(7.2%)など、親族外承継の占める割合も、コロナ禍以降上昇傾向が続いた。第三者承継は自社社員かM&Aなど他社との吸収・合併によるものに二極化している。
後継者候補〜「親族」「非同族」の割合が拡大、「ファミリー」承継は低下傾向
後継候補が判明した全国約12万社の後継者属性をみると、最も多いのは「非同族」の37.5%で、前年を1.5pt上回った。2022年調査に続き、後継者候補は「非同族」が2年連続でトップとなった。
「子ども」の割合は33.1%で、「配偶者」と合わせて引き続き3社に1社以上は身内への事業承継を予定しているものの、割合はいずれも前年から低下した。
「内部昇格」や「外部招聘」によって社長に就任した企業では、後継候補を「非同族」とした割合が8割超と高く、特に外部招聘では非同族の割合が9割を占めるなど、社外の第三者を経営に招き入れる傾向が強まっている。
「非同族」以外の後継候補の割合が大きいのは「創業者」と「同族承継」企業のみだった。ただ、「同族承継」でも後継候補を身内以外の第三者となる「非同族」に定めた割合が大きく、ファミリー企業でも親族外事業承継=脱ファミリー化へ舵を切る動きが強まっている。
今後の見通し
日本の企業経営者の平均年齢は61歳にせまり、多くが事業承継の適齢期を迎えている。
この間、コロナ前から官民一体となって推し進めてきた事業承継の重要性が中小企業にも浸透・波及してきたことに加え、M&Aの普及や事業承継税制の改良・拡大、金融機関主導の事業承継ファンドなど、多種多様なニーズに対応可能なメニューが揃ってきたことが、後継者問題の解消に多大な役割を果たした。
今後も、国や自治体による事業承継への働きかけにより企業の後継者問題に対する意識が一層高まるとみられ、後継者不在率の低下が引き続き期待される。
一方で、帝国データバンクが集計している『後継者難倒産』は2023年1-10月で463件発生した。10カ月累計としては2年連続で400件を超え、年間でも集計開始以後で過去最多を更新するとみられる。
なかでも、代表者が病気や死亡により事業継続がままならないケース以外に、後継者問題は経営課題として認識はあったものの「後継者育成」に頓挫し、承継完了が間に合わずに自社単独での事業継続を断念するケースが目立っている。
近時は劇場版アニメ制作などを手掛けるスタジオジブリ(東京・小金井)をはじめ、大手企業や規模の大きい企業でもこうした課題・難局に直面するケースが散見される。
現経営者が能力面や素質面などから後継候補に対し事業承継に消極的なケース、または後継候補となった対象者が事業承継を断る、あるいはその双方が発生するなど、事業承継に携わる当事者の間で「認識の差=ミスマッチング」の問題が顕在化しつつある。
「後継者問題への啓蒙」による、経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げている。
今後は事業承継中のアクシデントやトラブルの発生による「あきらめ」防止に向けた取り組みも重要になるとみられ、後継者決定後のフォロー・サポート体制の充実も求められる。
調査概要
調査対象/信用調査報告書ファイル「CCR」(190万社収録)など自社データベースを基に、2021年10月-23年10月の期間を対象に、事業承継の実態について分析可能な約27万社(全国・全業種)
調査機関/株式会社帝国デーバンク
関連情報
https://www.tdb.co.jp/index.html
構成/清水眞希