目次
「伺う」が持つ複数の意味とは?
『伺う(うかがう)』は、日常でよく使われる敬語の一つです。『神仏にお告げを願う』や『(寄席で)客に話をする』などの意味もありますが、ここでは主にビジネスシーンで用いられる意味を取り上げます。
■一般的に使われる意味
伺うには複数の意味があります。仕事やビジネスシーンで一般的に使われるのは、以下の三つです。
- 聞く
- 尋ねる
- 行く
例えば、「山田様から聞いています」という表現は、「山田様から伺っています」に言い換えられます(「聞く」の意味)。また、相手に「伺ってもよろしいでしょうか」と聞かれた場合は、伺うの意味を前後の文脈から判断しなければなりません。
伺うの使い方を間違えると、正しい敬語が使えない人だと思われかねないため、いつ・どこで・誰に用いるのが適切なのかをきちんと把握しておく必要があります。
■自分を下げる謙譲語
敬語の種類には、『尊敬語』『謙譲語』『丁寧語』『美化語』があり、伺うは敬語の『謙譲語』に該当します。尊敬語は、相手や第三者を敬う表現であるのに対し、謙譲語は、自分がへりくだることで、相手や第三者を立てる表現です。
謙譲語には『謙譲語1』と『謙譲語2(丁重語)』の2種類があり、伺うは謙譲語1に区分されます。
- 謙譲語1(『伺う・申し上げる』型):自分側から相手側・第三者に向かう行為などについて、向かう先の人物を立てるもの
- 謙譲語2(『参る・申す』型):自分側の行為などを話や文章の相手に対して丁重に述べるもの
例えば、電話で先生と話をしている際に「今から先生のところに伺います」という表現は、自分の行為を下げ、聞き手である『先生』を立てています。参考までに、謙譲語1に該当するのは以下のような敬語です。
- 伺う
- 申し上げる
- お目に掛かる
- 差し上げる
- ご案内する
- お届けする
出典:敬語の指針
「伺う」の使い方と注意点
『伺う』は、自分よりも目上の相手やお客さまに使う表現です。例文を挙げながら、使い方と注意すべきポイントを解説します。
■「聞く」意味の例文
伺うは『聞く』の謙譲語です。目上の人の話を聞くときや意見を求めるときなどに使うのが一般的です。いくつか例文を見てみましょう。
【例文】
- 貴重なご意見を伺うことができ、大変勉強になりました
- 当時の様子について、詳しい話を伺えますでしょうか
例えば、「山田様から話を伺っております」という表現では、山田様を立てています。社外の人に対し「弊社の社長から話を伺っております」は、社外の人の前で自社の社長を立てているため、違和感があります。立場が上でも社長は『自分側の人物』なので、立てないのが基本です。
また、「山田様から話を伺ってください」は、相手の行為に謙譲語が使われているため、適切な表現ではありません。この場合は、尊敬語を用いて「山田様から話をお聞きください」とするのが適切です。
■「尋ねる」意味の例文
伺うは、『尋ねる』『問う』の意味でも用いられます。例えば、仕事中に上司に質問をしたいときは、「〇〇について、伺ってもよいでしょうか」という表現を使いましょう。
【例文】
- 道に迷ってしまいまして、東京駅までの道順を伺ってもよろしいでしょうか
- 恐れ入りますが、お名前とご住所を伺ってもよろしいでしょうか
「道順は交番で伺ってください」は一見、丁寧な表現のように思えますが、相手の行為に謙譲語を使うのは間違いです。尊敬語を使い、「道順は交番でお尋ねください」と伝えましょう。
「行く」意味の例文
伺うには、『行く』『訪問する』の意味があります。ビジネスシーンはもちろん、日常会話の中でも頻繁に用いられるため、使い方を間違えないようにしましょう。
【例文】
- システムの稼働状況を確認するため、本日の15時に御社に伺います
- 時間通りに伺えず、誠に申し訳ございません
注意したいのが、『お伺いさせていただく』という表現です。一つの言葉の中に『伺う』と『させていただく』という謙譲語が2回使われているため、二重敬語に当たります。慣用表現として定着していても、本来は不適切な表現であることを覚えておきましょう。
「窺う」「覗う」との違い
伺う(うかがう)の同音異義語には、『窺う』や『覗う』があります。意味や使い方が異なるため、混同しないように気を付けましょう。
「窺う」は様子を見ること
『窺う』は、様子をそっと見ること・ひそかに待ち受けることなどの意味があります。伺うと異なり、敬語ではありません。
【例文】
- 兄はいつも父親の顔色を窺っている
- 相手を出し抜こうと、じっと機会を窺っている
- 彼の表情からは、並々ならぬ決意が窺える
目上の人を訪問して様子や安否を聞くことを『ご機嫌伺い(ごきげんうかがい)』といいます。『顔色を窺う』の意味と混同して、漢字を間違えないようにしましょう。
「覗う」はのぞいて様子を見ること
『覗う』は、のぞいて様子を見ることです。『覗き見(のぞきみ)』という言葉があるように、小さな穴や隙間から、様子を探る状況で使われるのが一般的です。『無断でこっそり見る』『好奇心に駆られて見てしまう』というニュアンスが含まれるでしょう。
【例文】
- 防犯カメラには、窓から中の様子を覗う男の姿が映し出されていた
- 障子の穴から隣の部屋にいる弟の様子を覗う
- 屋根裏に潜んで敵の行動を覗った
『覗』は、常用漢字ではありません。読み方が難しい難読漢字でもあり、新聞や公文書では平仮名で表記されます。
「伺う」の類語表現
伺うの類語表現としては、『参る(まいる)』『承る(うけたまわる)』『お尋ねする』の三つがあります。正しい使い方を知り、TPOに応じて使い分けましょう。
■参る
参るは、『行く(来る)』の謙譲語です。伺うは『謙譲語1』ですが、参るは、話の聞き手や読み手に対して丁重に述べる『謙譲語2(丁重語)』に当たります。丁寧語の『ます』を伴い、『参ります』の構文で使われることが多いでしょう。
【例文】
- 必要書類をそろえた上で、13時に御社に参ります
- 今日の午後は、弊社の山田が御社に参ります
- 今週は出張で京都に参ります
お客さまに対して「今、上司が参りますので、しばらくお待ちください」など、自分だけでなく、『自分側の人物』の行動に対しても使えます。
■承る
承るは『聞く』の謙譲語で、謹んで聞く・拝聴するという意味があります。目上の人やお客さまを立てる表現で、目下の相手には使いません。
【例文】
- 先生のご意見を承りたく存じます
- (目上の人からのアドバイスに対し)貴重なお話を承りました。ありがとうございます
なお、承るは『引き受ける』『受ける』の謙譲語でもあります。職場では、お客さまや取引先からの依頼や伝言を受けたときに使うことが多いでしょう。いくつか例文を紹介します。
【例文】
- コールセンターの鈴木がご予約を承りました。お電話ありがとうございました
- 田中は外出しております。よろしければ、ご用件を承ります
■お尋ねする
伺うと同様に、『お尋ねする』は謙譲語1に該当します。丁寧語の『ます』を付けて、『お尋ねします』の構文で用いるケースが多いでしょう。
【例文】
- お忙しいところ恐縮ですが、〇〇についてお尋ねしてもよろしいでしょうか
- 無礼と承知でお尋ねします
なお、「受付でお尋ねしてください」は、相手の行為に対して謙譲語を使っているので不適切です。この場合は、「受付でお尋ねください」とするのが適切です。
『お尋ねください』は尊敬語ですが、『ください』は命令形です。命令に不快感を覚える人もいるため、「お尋ねくださいませ」とするのが望ましいでしょう。
構成/編集部