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「陳謝」の意味と使い方
記者会見や、ニュース・新聞などでは『陳謝(ちんしゃ)』という表現がよく使われます。一見、中国語のようにも見えますが、どのような意味があるのでしょうか?
■事情や理由を述べて謝ること
陳謝は中国語に間違えられやすいですが、事情や理由を述べて謝ることを意味する日本語で、陳と謝には、それぞれ以下のような意味があります。
- 陳(ちん):述べる・告げる・申し立てる
- 謝(しゃ):謝る・詫びる
陳謝を述べたビジネス文書は『陳謝状(ちんしゃじょう)』や『陳謝文(ちんしゃぶん)』と呼ばれます。ただ単に謝罪の言葉を連ねるのではなく、事情やそこに至るまでの経緯などをきちんと盛り込まなければなりません。
■「陳謝」を使った例文
陳謝は主に、ビジネスや政治的な文脈で使われます。新聞やニュースで、「首相、閣僚の失言めぐり陳謝」「◯◯市の個人情報流出、市長陳謝」などの見出しを目にしたことがある人もいるでしょう。陳謝を使った例文をいくつか紹介します。
<例文>
- 「大変申し訳ない」と陳謝した上で、早期撤廃に向けての協力を求めた
- 極めて遺憾だとして陳謝し、責任を取って辞任した
- 議員は、本会議で陳謝文を読み上げた
- ご迷惑をお掛けした関係者の皆さまに心から陳謝いたします
過ちを犯した本人が使う場合もありますが、当事者以外の第三者が状況を伝えるために用いるケースの方が多いでしょう。
「陳謝」を使う際の留意点
陳謝は行為全体を指す言葉であり、使われる場面が限られています。「陳謝いたします」と述べた場合は、事情や経緯をきちんと伝えなければなりません。使用上の留意点を解説します。
■日常会話ではほとんど使わない
日常会話で、陳謝という言葉が登場する機会はほとんどありません。主に以下のようなシーンで使われます。
- 不祥事を起こした会社・団体の記者会見
- 議場
- メディア(新聞・ニュースなど)
- 陳謝状・お詫びのメールの文面
- のしの表書き(お詫びの品)
仕事でミスをした際、上司やクライアントに対して「今回のミスについて、陳謝いたします」と言う人はあまりいないでしょう。この場合、「大変ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」や「深くお詫び申し上げます」などと謝罪した上で、事情を伝えるのが適切です。
■経緯や今後の対応策も一緒に伝える
仕事で大きな失敗をし、上司に「クライアントに陳謝状を出しておくように」と指示された際、どのような内容を盛り込めばよいのでしょうか?陳謝状には、少なくとも以下の内容を明記する必要があり、謝罪の言葉を並べるだけでは不十分です。
- なぜ問題が起こったのか(原因・理由)
- どのように事が進んだのか(経緯)
- 現在はどのような状態なのか(現状)
- 今後の対応策・再発防止策
- 謝罪の言葉
相手は、多かれ少なかれ「また同じ問題が起こるのではないか」「次はミスを隠されるのではないか」という不安を感じています。謝罪とともに今後の具体的な対応策を提示するのが望ましいでしょう。
「陳謝」の類語・言い換え表現は?
陳謝は、日常会話であまり使われないため、他の表現に言い換えた方がよい場合があります。類語として、『謝罪』『深謝』『詫び』を取り上げ、例文とともに使い分けのポイントを解説します。
■謝罪
『謝罪(しゃざい)』とは、自分の罪や過ちを詫びることです。陳謝と異なり、事情や理由を述べるという意味合いは含まれていません。
不祥事や問題を起こした会社の記者会見では、記者がその背景や、原因・責任などを追及します。関係者が「申し訳ございませんでした…」とただ頭を下げるだけであれば、その行為は謝罪ですが、事情や責任の所在などを伝えていれば、陳謝に当たります。謝罪を用いた例文をチェックしましょう。
<例文>
- 理事長が謝罪会見を開き、「深くお詫び申し上げます」と謝罪した
- このたびの通信障害につきまして、会社を代表して謝罪いたします
- 上司から謝罪文を書くように指示された
■深謝
『深謝(しんしゃ)』は、深い感謝や深い謝罪を意味します。話し言葉ではなく、主に手紙やビジネスメールなどで用いられます。日常会話では「深謝します」とは言わず、「誠にありがとうございます」や「大変申し訳ございません」とストレートに表現するのが一般的です。
大変な迷惑をかけてしまった相手にお詫びの品を渡す際は、のしの表書きを深謝とします。「誠に申し訳ございませんでした」「心ばかりではございますが、どうぞお納めください」の言葉を添えて手渡せば、相手に気持ちが伝わるでしょう。以下は、深謝を用いた例文です。
<例文>
- 平素より格別のご愛顧を賜り、深謝申し上げます
- 皆さまの心温まる歓待に深謝いたします
- このたびは弊社のスタッフの不手際により、多大なるご迷惑をおかけしましたこと、深謝いたします
■詫び
『詫び(わび)』は、謝ること、またはその言葉を指します。陳謝や深謝と違い、会見・公文書・ビジネスメールはもちろん、日常会話でも幅広く使えるのが特徴です。
謝罪の程度は、詫び・陳謝・深謝の順番で大きくなります。深謝を使うと、仰々しく受け取られる可能性もあるため、相手や状況に応じて使い分けましょう。
例えば、交通事故で相手にけがを負わせた場合、お詫びの品の表書きは深謝がふさわしいですが、隣近所や取引先にちょっとした迷惑をかけてしまった場合は、陳謝またはお詫びの方が適当であるといえます。
<例文>
- 商品表記に一部誤りがありました。ご購入いただきましたお客さまには、ご迷惑をおかけしましたことを謹んでお詫び申し上げます
- 今回、このような結果になったことを深く反省し、心からのお詫びを申し上げます。今後は同じ過ちを繰り返さないよう、再発防止に努めてまいります
構成/編集部