アイデアノミカタ「テオ・ヤンセン」
現在、千葉県立美術館では、オランダ出身の彫刻家テオ・ヤンセンの展覧会が開催されています。「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称されるヤンセンの作品は、科学とアートの融合が特徴です。展示では、風の力で動く代表作「ストランドビースト」が10体以上も披露されています。
今回のアイデアノミカタでは、ヤンセンの経歴や作品の変遷に焦点を当て、その独創的なアートを紐解いていきます。
テオ・ヤンセン
1948年、オランダの海辺のリゾート地スフェベニンゲン出身のヤンセンは、デルフト工科大学で物理学を専攻したのち、1975年に画家に転向します。
実は代表作である「ストランドビースト」の制作を開始したのは1990年のことで、あるとき、YouTubeに作品をアップしたことで、ストランドビーストは世界中から注目される存在になっていきます。
実は日本との関わりも深く、2009年に日比谷パティオでアジア初の展示が開催されてから現在まで、日本各地で13回(本展示含む)もの展覧会が開催されています。
ストランドビースト
ヤンセンの代名詞であるストランドビーストの語源は、オランダ語で「砂浜の生命体」を表していますが、ヤンセンによって、その環境に適した改良が加わります。
サイズも人間ほどの大きさから、全長10mを超えるものまで、大小さまざまです。
その性格も個体ごとに異なり、ときに尾を振ったり、波のような動きを見せたり、ストランドビーストは時代ごとに変化していくことも特徴です。
そもそもストランドビーストは砂浜を歩く生命体ですが、その構造は物理学がベースとなっています。とはいえ、この独特な歩き方をどのように獲得しているのでしょうか。
その秘密が「ホーリーナンバー(聖なる数)」です。
ストランドビーストの脚はチューブの長さと位置関係が13の数字で構成されており、これは、ヤンセンがコンピュータ上でシミュレーションを何度も繰り返し、たどり着いた理想的な形です。こうした試行錯誤を積み重ね「ストランドビースト」に生き物としての動き方を実装させたのです。
その他にも、本展示で見逃せない部品がペットボトルです。
このペットボトルの機能は風を蓄える胃袋としての役割を担っており、これをヤンセンは「風を食べる」と表現しているように、砂浜で生きるための進化の過程で風を貯蔵できるようになり、無風でも動くことが可能な体を獲得しました。
強風時には杭を砂に打ち込む機能によって、転倒することを防いでいます。
そもそもストランドビーストを構成する全ての素材を、プラスチックチューブ(塩ビ管)で作りたいとヤンセンは考えていました。このチューブをシリンダーとピストンにして、内部にバルブを作ることで神経のような感知システムを構築しているのです。
ちなみに、このチューブの色にもこだわりがあり、色の仕様が変更されることを知ったとき、約50km分のチューブを買い占めたといいます。
また必要な空気を身体中にめぐらせるために、曲げやすいウレタンチューブを仕様しています。
このウレタンチューブは水に弱いストランドビーストの生命線となる水感知のセンサーとしての役割も担っています。
これらヤンセンが与えた要素によって、ストランドビーストは動きと命を得たのです。