【ヒントその4】最後に勝つのは何度打ちのめされてもあきらめない人
日本人の現代女性アーティストで今、最も有名なのが草間彌生(1929年~)だろう。水玉模様のカボチャは誰もが一度は目にしたことがあるはず。でもこのカボチャがなぜ優れた美術作品なのか、知ることでもっと別の作品に見えるかもしれない。
パピヨン本田さんによると、日本の作家で、草間ほど現在、世界中で認められている人はいないのではないか、と言う。「けれど、彼女ほど、認められるのに時間がかかった人もいないかもしれません」と述べている。
「幼いことから見える幻覚や幻聴との闘い、そして第二次世界大戦の影もある中で、世界を舞台に美術を続ける創作への苦悩と欲望を、不条理な人生への反骨精神として作品に表現しました。
1つのパターンを繰り返す、コピー・反復・増殖で見る人を作品の世界の中に入り込ませてしまうほどの、独自の世界を立ち上げたことが草間の特長です」と解説している。
自分の独創的なモチーフが別の作家に使われてしまい、そちらの方が大ブームになるというという経験を二度も繰り返した草間は絶望し、自殺未遂を繰り返したこともあった。しかし、絶望しても立ち上がり、また新しくチャレンジする姿は、私達にたくさんの勇気を与えてくれた。
水玉のカボチャには、こうした彼女の不屈の精神が込められており、最後に成功をつかみ取った勝利の証にも見えてくる。
【ヒントその5】忘れられた負の歴史を見つめ直すきっかけになる
こうしたさまざまな作家のエピソードが紹介された新刊書。最後に、現在と未来の現代アートの潮流についても触れている。特に美術によって自分の国の忘れてしまいがちな負の歴史を見つめ直そうという動きについても紹介している。
中国の作家アイ・ウエイウエイの「漢時代の壺を落とす」(1995年)では、「これまでの文化を見直せ」とばかりに、(自分の所有物である)2000年前の漢時代の、何千万円もする高価な壺を落として壊すという、衝撃的な写真作品を作成した。自国の文化や歴史について目を向けさせようとしたという。
人の心の中だけでなく、政治や社会にも影響を与えるような大きなパワーをもつ現代美術。パピヨン本田さんが解説してくれなかったら、まったく別の遠い世界のものだった。解説を読んでいると、ぐっと身近に感じられるし、ビジネスシーンでも役立つエピソードがたくさん紹介されている。
新刊書にはたくさんの非常識とも思える作家が登場していた。岡本太郎の婚姻関係など、ところどころで挟み込まれた面白い作家のエピソードを知ると、より作家が身近に感じられるようになり、作品への見方も変わってくる。美術が好きな人はもちろん、あまり興味の無い人にこそ読んで欲しい、秋にふさわしい一冊。現代美術の中に、新しいビジネスのヒントが隠されているかも。
パピヨン本田さん
1995年生まれの作家。2021年5月に彗星のごとくTwitter(現X)に現れ、またたく間に人気を得る。美術史に残る出来事や、アーティストの日常の顔、展覧会やギャラリー事情まで、美術業界のあるあるネタを描く。デュシャンやウォーホルなど著名アーティストを描く氏の漫画で「現代美術史の登場人物や相関関係を押さえられた!」という声も多い。主なSNS連載シリーズ に、『美術のビジュえもん』『パピヨンと本田』など。芸術やカルチャー情報を扱うWebメディアCINRAで『美術のトラちゃん』を連載中。
https://twitter.com/papiyonhonda?lang=ja
文/柿川鮎子