(2)安全性部門〜30%以下になると金融機関からの資金調達が困難に
自己資本比率は、自社の総資産のうち何パーセントを返済不要な資金で調達できているかを表す指標であり、数値が高いほど財務基盤が安定していると評価できる。
中国では、自己資本比率が40%~60%で安定した資金運用ができ、30%以下になると金融機関からの資金調達が難しくなると言われている。
不動産業は、商品の仕入れに多額の資金が必要な業種であるため、他業種と比較して借入需要が高く、2021年12月期における不動産業の平均自己資本比率は、31.7%とやや低い傾向にある。
かかる中で、今回の調査対象39社のうち36社において、自己資本比率が業界平均値の31.7%を下回っており、その理由として、調査対象39社は、中国不動産業の売上高上位2%に属する大手企業であるが故に、巨額の投資が自己資本比率を押し下げる要因となっているものと考えられる。
しかしながら、事業特性から自己資本比率が低くなりやすいとはいえ、極端に低い状態では、運転資金が不足した際の資金調達ができず、債務不履行(デフォルト)に陥る可能性が高まる。
ワースト1位の「融創中國控股有限公司」では自己資本比率が10%を下回っており、資金調達が困難な状態に陥っている恐れがある。(表3)
流動比率は、短期的に支払いが必要な流動負債に対して、返済原資の流動資産の割合を表す指標だ。流動比率は200%以上を有している状態、つまり流動資産が流動負債の2倍以上の状態が望ましいとされている。
流動比率が100%以下の状態は、すべての流動資産を支払い原資として投下しても、流動負債を返済しきれない状態を表しているため、資金繰りが厳しい状態にあるといえる。
ワースト1位の「融創中國控股有限公司」、ワースト2位の「新城控股集团股份有限公司」においては、流動比率が100%以下であり、流動負債に対する返済原資が不足していることがわかる。(表4)
(3)不安情報〜現時点で不安情報を入手している企業は5社
これらの「収益性」、「安全性」指標に加えて、当社グループが調査対象企業について入手した不安情報を紹介する。
調査対象39社のうち、現時点で不安情報を入手している企業は5社となっている。不安情報を取得している企業は、調査対象の39社の中でも純利益率や自己資本比率が特に低く、収益性や安全性の悪化がうかがえる上、入手している不安情報も「支払い遅延」など、資金繰りの悪化に関するものであるため、倒産の危険性が高い状態といえる。
なお、中には「金科地产集团股份有限公司」のように、既に倒産に至っている企業も含まれている。(表5)
以上の各ランキング登場回数を、下表にまとめてみた。(表6)
■調査結果まとめ〜収益性と安全性の両面で低評価となっている企業は、倒産懸念が非常に高い状態
今回のランキングでは、中国国内の不動産業の売上業績TOP50に入るような事業規模の大きな企業においても、近年急激に収益性や安全性が悪化し、倒産の懸念が高まっていることが推察できた。
特に、収益性と安全性の両面で低評価となっている企業は、倒産懸念が非常に高い状態といえるだろう。
なぜ今、中国の大手不動産業者の収益性や安全性が悪化しているのか。それには、不動産業の業種特性や現在の中国の経済状況が関係しているからだ。
前述のとおり、不動産業は建物の売買や不動産開発などに対し巨額の投資を行ない、そのリターンを得ることを収益源としている。投資は、金融機関からの借入や、物件の購入者からの前受金を財源としている。
中国政府は、金融緩和の影響で高騰していた不動産価格を抑制するために、2020年に不動産業者への融資や住宅ローンの融資を規制。その結果、投資の財源を失い資金不足となり、債務不履行(デフォルト)に陥る大手企業が発生しているのだ。
中国政府は、現在の状況を打開するために、住宅ローンの引き上げや不動産業者への融資の返済期限の延長を実施しているが、中国の不動産価格は下落しており、今後も、多額の投資を行なっている大手企業ほど、投資の回収ができずに資金繰りが窮地に立たされる可能性が高まる。
中国企業との取引を行なう際には、取引先の規模だけではなく、業界状況や企業の財務状態を加味した上で、慎重に取引判断を行なうべきであり、特に、不動産業の場合には、無茶な投資を行なっていないか、投資回収の見込みがあるのかどうかを調査することが肝要と言えるだろう。
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構成/清水眞希