■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はNTT法を巡る最新事情について会議していきます。
物議をかもす〝NTT法撤廃論争〟。 ことの発端は?
房野氏:ここ最近、NTT法(日本電信電話株式会社法)を廃止したいNTTに対して、廃止を阻止したいKDDI、ソフトバンク、楽天モバイル連合といった構図になっており、今後の動きが注目されていますが、まずはその概要をご説明いただけますか?
石川氏:そもそもは、自民党が防衛財源を確保したいという話の中で、NTT株を売る案が出たところから始まっています。NTT株を売るためには、NTT法を改正しないといけません。
このタイミングを狙ったのか、NTTが仕掛けたのかはわかりませんが、NTTは「NTT法をなくしてしまおう」と動いています。NTT法があると、研究開発の内容をオープンにしないといけないため、パートナーが集まりにくかったり、そもそも社名も決められてしまっているので、電信と付く名前を変えられないといったデメリットがあります。
一方で、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルを中心とした約180者は、それに対抗する意見を出している。NTT法を廃止すると、ドコモやNTT東西を一緒にした、巨大な組織ができてしまうのではないか、それによって、NTTが所有する設備に接続する際の料金が上がるのではないかと危惧している。ユニバーサルサービスを見直して、地方を軽視するんじゃないかといった懸念もあります。
約180者は、NTT法を見直すこと自体には反対をしていないし、NTTが主張している、研究開発などへの説明には納得している一方で、ユニバーサル法などは守らないといけないと主張している。NTTは「事業法で対応できる」と言っていますが、口約束に過ぎないし、ドコモを完全子会社化した歴史もあるので、信用はできない。ただし、自民党はNTT法廃止の方向で進んでいるみたいです。
石野氏:朝日新聞に、NTT法廃止の原案がすっぱ抜かれていましたね。そこでは、NTT株を売却した資金は防衛財源に充てないという話になっていて、前提が変わっている。じゃあNTT法を撤廃する必要なんてないじゃんとも思うんですけれど、なぜか撤廃の話だけが残ってしまっています。
一方で、NTTの島田社長がおっしゃっていたように、電気通信事業法にまとめればいいという意見も、理解できました。同じことが電気通信事業法に書かれていれば、それを新NTT法と見なすこともできなくはない。水掛け論のようにもなってきています。
確かに、電気通信事業法に全部書けば規制はできるけれど、NTT以外の各社は「電気通信事業法に記載をしても、担保されるわけではない」と主張している。X(旧Twitter)での直接対決は実現しましたが、プレスリリースや記事を介して、NTTとほかの会社がキャッチボールしているのはあまり健全ではない。すみやかにNTTと関係各社が一堂に会して議論してほしいです。
日本電信電話株式会社(NTT) 代表取締役社長 社長執行役員 島田 明氏
石川氏:ソフトバンクの宮川社長が指摘しているのは、電気通信事業法に記載をしても、NTTは事業を子会社などに分散するなどして、意図的にNTT自体のシェア率を下げることで、法の規制を逃れてしまう可能性がある。だからこそ、NTT法として、線引きしよう……という主張ですね。
ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川 潤一氏
石野氏:シェアでくくらないように、NTT特例みたいなものを作ればいいという考え方もある。
石川氏:だったらNTT法があればいいじゃん(笑) なぜ撤廃にこだわるのかがわからない。
法林氏:そもそも、NTT法の内容が時代の変化に対応していないという指摘があり、テコ入れをしたほうがいいのは確か。NTT法は電電公社からNTTに移行した1985年に制定された法律なので、電気通信サービス全般の中でも「電話サービスを広くあまねく提供する」……という部分に重きが置かれている。
ところが、この十数年で携帯電話やスマートフォンが広く普及し、インターネット接続も生活に欠かせなくなるなど、国民が利用する電気通信サービスの環境は、大きく変化した。だから、時代に合わせ、NTT法を改正することは望ましいと思うけれど、防衛財源の話をきっかけにしたのは、筋が悪いというか、やり方が下手だなと思う。もっと早い段階から将来のことを考えて、各社が集まって議論するべき内容なのに、急に議論をはじめてしまったのが自民党の勉強が足りないところ。本来であれば、電話サービスだけじゃなくて、光回線などのブロードバンド回線も全国一律で提供できる環境を整えるための法律を作るべきで、そこに取り組んでこなかったツケが回ってきている。
NTTはそもそも、1952年に日本電信電話公社として発足した。そして、1985年に日本電信電話株式会社(NTT)として民営化され、翌年、政府保有のNTT株の一部が売却されている。国営事業を出自としているため、保有する資産などを含めて、一般的な企業とは位置づけが違う。島田社長の「固定電話など、NTTに課せられたユニバーサルサービスなどの義務は、電気通信事業法でブロードバンドサービスなどといっしょに定義できる」という主張は、理解できる部分があるけれど、電気通信事業法は、あくまで電気通信サービス全般についての法律なので、そこに特定の法人に対する制限や義務などを記載することが適切なのかは、先に議論しないといけない。