日本はまだコンサバ? クラフトビールのワクワクする世界
約5年ぶりの来日になったオリバー氏は、東京でさまざまなレストランに脚を運んだという。その上で、クラフトビールの可能性をこう語る。
「東京は『ミシュランガイド』の星が世界で一番多い街ですね。食文化のトップに立つ都市です。そこで料理に合わせる飲み飲み物は? と言えば、ビールに合わせるべきです。なぜならビールがいちばん幅広い味わいを持っているから。ビールはスタイルが150種以上もあるんです。バナナ風味だってあるんですよ! バラの風味、チョコレート、ココナッツ……こんなに幅広いレンジを持った飲み物はありません。日本の豊かな食のバリエーションにもっとも合わせられるのはビールです」
日本人はレストランに行くと、特に洋食ではワインに合わせることが多い。オリバー氏は食文化の高い日本だからこそ、食中酒としてのビールのポテンシャルは高いと話す。
一方で、足元を見れば、日本のビール市場に占めるクラフトビールの割合は約2%に過ぎない。ちなみにアメリカでは15%くらいだ。ブルワリーの数は倍増し、キリンビールの「タップ・マルシェ」など大手ビール会社もクラフトビール販促に力を入れている。にもかかわらず、なかなか2%の壁が突破できない。どこに、どんな課題があるのだろうか? オリバー氏にたずねた。
「答えは短くなってしまいますが、いろんな人に飲んでもらうしかありません。そのためには醸造者が、消費者がもっとワクワクできるものを造りつづけていかないといけないでしょうね。まだまだ日本の醸造者はコンサバだと思います。〝新しいビールを造っても消費者はわかってくれない〟なんて引いてないで、どんどん新しいビールを造るべき。新しい原料を使ったり、新しいスタイルを提案したり、それをワクワクするストーリーとともに語ってほしいと思います」
新たな原料でサスティナブルなビール造りを
この数年はニューヨークの本家ブルックリン・ブルワリーも、かなりタフな状況に追い込まれたと、オリバー氏は語る。コロナ禍が一段落してからも在宅勤務が定着したためか、バーの客足が減ってしまったのだと言う。といって、手をこまねいているわけではなく、新しいアプローチを次々と繰り出している。
新しいビールスタイルの提案、新しい原料の使用。そのひとつが、フォニオ(fonio)という穀類を使った「FONIO RISING」をいうピルスナータイプのビールだ。アフリカで栽培される雑穀の一種で、パンやクスクスなどの原料になる。肥料や水はごく少量で栽培できるそうだ。
ブルックリン・ブルワリーの新しいビール。フォニオという栽培コストの低い、環境面を考えた穀物を使用している
「社会的にも環境的にも時代に合ったビールを造りつづけていきたい」とオリバー氏は語る。ビールは副原料や醸造方法が自由な飲み物だ。そのスタイルは時代とともに広がっていく。オリバー氏はビールの楽しさをこう表現した。
「ジャズを知らなかった人が、初めてコルトレーンを聴いてジャズと出会う。それはその人の人生を豊かにしてくれる。私たちブリュワーはビールでそれをやっています。好きなビールと出会えれば、それはその人の人生を楽しくしてくれるはずです」
ニューヨークのブルックリンに生まれたブルワリーが35周年を迎えた。日本の地ビール解禁から来年で30年。日本のクラフトビールはまだまだ伸びしろがありそうだ。
取材・文/佐藤恵菜