こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
―― Xさん、胸を押さえていますが、何されたんですか?
Xさん
「社長がブチギレて胸ぐらをつかんできたんです」
裁判所
「やりすぎだね。慰謝料10万円!」
ワン胸ぐらでも10万円いくんですね。
以下、分かりやすくお届けします(宮田自動車商会事件:札幌地裁 R5.4.7)。
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・自動車関連部品全般の卸売業などを行う会社
▼ Xさん
・営業所長
どんな事件か
▼社長、胸ぐらをつかむの巻
―― 社長から、どんなことをされたんですか?
Xさん
「暮れも押し迫った12月28日のことでした。役員室で、社長が机をたたき『オマエふざけんなよ!』と怒鳴って携帯電話を私にぶつけたり、胸ぐらをつかんだりしてきたんです」
―― 社長、マジですか?
社長
「いやいや、つかんだのは胸ぐらでなく、肩です」
裁判所
「いや、あなた裁判所に提出した書面で『胸ぐらをつかんだこと』を認めてるじゃん。それを今さら肩って、主張の変遷に合理的理由を見出せないですね~」
社長の訴訟活動は一貫してないですね。自分に不利なことを書面に書いて、それを後から覆すことは無理ゲーです。南無。
▼「携帯電話がぶつけられた」は認められず
裁判所
「話は変わるけどXさん!『携帯電話がぶつけられた』とのことですが、それを裏付ける的確な証拠がないので認定できません」
Xさん残念でしたね。暴行1つ1つで慰謝料が積み上がっていくので、これが認定されなかったことで慰謝料が若干さがったと思います。パワハラ社長と対峙するときは常時録音で挑みましょう。
そして携帯をぶつけられたのであれば「いてっ!携帯を投げないでくださいよ!」と発言しておく。やられたことを言葉にして収録するよう工夫してください。シャドーボクシングをされたら「殴るおつもりですか!」と言葉を発しておくなど。
▼社長、Xさんの態度が悪いから胸ぐらをつかんだと言い張る
社長
「私のやったことが悪いとしても、Xさんの態度が原因ですよ。私の質問に対してXさんがはぐらかすような弁明をずっと続け、私をあざ笑うかのような態度をとったからです。過失相殺されるべきです」
裁判所
「Xさんの態度を裏付ける証拠ある?ないよね?なので過失相殺しません」
Xさんの態度がチョー悪ければ過失相殺されていたおそれがあります(=慰謝料減額)。上司のパワハラを誘発するために挑発することは避けましょう。