最近「アンバサダー」という肩書が増えた理由とは?
アンバサダーという言葉は近年急激に使われている。直訳すると「大使」「代表」の意味で、日本語ではこれまでにも地方自治体などでよく使われてきた。
少し前ならば企業やブランドと著名人の組み合わせというと、イメージキャラクター、CMキャラクターなどの言葉だったが、今やアンバサダーという肩書がじわじわと覇権を握っている。
2023年に入ってからだけでも海外ブランドでは山下智久さんがブルガリとモエ・エ・シャンドン、山﨑賢人さんがサンローランとウブロ、川口春奈さんがフェンディのブランドアンバサダーに就任。国内でもマンダムが「ルシード」でオダギリジョーさん、シャープが新ビューティブランド「プラズマクラスター ビューティ」で宮世琉弥さんを起用。
ブランド以外でも、テレビ東京の60周年記念番組のアンバサダーとして出川哲郎さんが出演するなど、アンバサダーという言葉が頻出している。
そもそも、ブランドアンバサダーとはどういう存在なのか?海外のラグジュアリーブランドをはじめ、ホテルやレストランなどのPRやマーケティングをサポートする会社「KENNY CHAN INC.」の代表である中村ケニーさんに伺った。
――ブランドアンバサダーとはそもそもどういう存在なのでしょうか?
ブランドアンバサダーまたはブランド大使の定義はさまざまありますが、簡単に言うと、企業やその企業が持つ商品やサービスなどの情報を、さまざまなコミュニケーションプラットフォームを通し多くの人々に知ってもらう、ファンになってもらうなどの目的で、企業やブランドの「広告塔」や「顔」としてメッセージと魅力を発信し広めていく人になります。
またブランドアンバサダーにも大きく2種類あります。ひとつは、タレントを起用し、広告塔として自社の商品やサービスをアピールし、認知度向上、購買きっかけにつなげることを目的とした「タレントアンバサダー」があります。
ふたつ目は、「一般ユーザーや顧客を起用したアンバサダー」です。タレント起用ほどリーチできないが、使用感やクチコミなどに対する信頼度も高く、消費者目線で正直な感想など発信してくれる。ユーザーとのコミュニケーションの壁も比較的なく、商品やブランドのファンコミュニティ/ブランドコミュニティ形成などの働きかけを行なってくれるなど、それぞれのアンバサダーを起用することによるメリットがあります。
――前者のタレントアンバサダー起用の場合、CMへの単体出演、イベントへの出演とはどう違うのですか?契約期間とかしばりは?
ブランドアンバサダーとしての依頼内容として、CMへの出演やイベント出演も条件に含まれているケースもあります。
タレントとしてのCMへの単体出演やイベントへの出演に関しては、商品やサービスがアプローチしたいターゲット層、またはその起用タレントのファン層への宣伝効果を高められ、企業のイメージ向上やブランディングにも繋がります。またCMと連動したイベントを行うことでエンタメメディアでのメディア露出を期待できるなどメリットがあります。
しばりについては、同業他社、競合ブランドへの露出・イベント参加に制限が発生することが多いです。契約期間や起用期間は、1年からというのがほとんどになります。
――ブランドアンバサダーを起用するブランド側の狙いは?最近増えている理由はなぜなのでしょうか?
いろいろな狙いがあるとは思いますが、ブランドを人格化したマスコットキャラクターの立ち位置「ブランドキャラクター」を起用するより、著名人を起用したブランドアンバサダーの方がマーケティング上、重要な数値が測りやすく可視化しやすいというのもあるかと思います。ブランドアンバサダーを起用したことによる、ホームページ数のアクセス数が増加、購買率がアップ、これまで獲得できなかった顧客層や地方エリアの新規顧客の獲得率などエンゲージメントを見ることができます。そこから今後どういった戦略を立てれば良いのか、ブランド/商品が今の時代のニーズにマッチしているのかなど。
またコミニュケーションツールが多様化し、生活者が捉えるテレビ視聴のあり方が大きく変化しています。見逃し視聴サービスによって地上波のオンタイム放送の視聴が減り、結果テレビCMを見なくなるなど、広告のあり方も多様化しているのもあると思います。今は、TV-CMや企業ホームページへ登場するだけではなく、SNSなどでのLIVE配信、SNS広告といった包括的な露出を企業が求める傾向があるのです。なので、SNSなどのフォロワー数が多い、エンゲージメントが高い人、ブランドとの親和性が高い人など、これまでになかった理由でタレントを起用する企業も増えてきています。
起用される側にとっても、他のブランドや企業からのラブコール/オファーの機会が増えるメリットがあると思います。やはり事務所側もアンバサダー契約となると長期間契約を結べるのは大きいですし、他の企業にも「あのブランドのアンバサダーにも選ばれたウチの●●です」と営業しやすくなります。また事務所側が打ち出したいブランド戦略にピッタリであれば尚更です。
コミュニケーションツールの多様化により、ますます高まるアンバサダーの価値
そもそも起用するブランドのポジティブなブランド力ありきではあるが、今回のTWICE SANAさんのグラフ ジャパン アンバサダー就任の効果は日本に留まらない。ワールドツアーを実施中のK-POPアイドルグループ TWICEのメンバーでもあるSANAさんは世界各国のファンから支持されており、すでにネットを通じて世界にもそのジュエリーの魅力が広く発信されている。
才能あふれる俳優や歌手の活躍がネットを通じて即時世界にシェアされる時代において、メディア外での発信も増え、広告効果の価値はさらにあがっている。今後もアンバサダーの起用は増えそうだ。
取材・文/ライター 北本祐子