地上の道路が過密する中で注目度を増しているのが、空の都市交通。「空飛ぶクルマ」が注目されるが、それよりひと足早く、もしかしたら圧倒的に広く、社会に実装される可能性があるのが「都市型ロープウェイ」だ。日本で唯一、「Zippar」の開発に挑むZip Infrastructure社のレボンキン マリオイアンカロスフェリド氏に、常識を覆す展望を聞いた。
「空飛ぶクルマ」よりひと足早く実装されそうな「都市型ロープウェイ」
機械で動く循環式のロープウェイ自体は、100年以上前からあるが、「自走式」は意外に大きな転換だ。レール(軌道)と索道(ロープ)を組み合わせて、カーブや分岐など、複雑なルート設計が可能。ビルの間を縫って走ったり、ゴンドラごとに行き先や停車駅をコントロールすることもできる。
ゴンドラを固定したロープごと回していた従来型にはない、都市交通としての機能性が、ロープウェイに備わったわけだ。
メリットは次表のとおり複数あるが、圧倒的に安く、早く建設できることを強調したい。1kmあたりの建設費は15億円、工期は1年程度から。一般に地下鉄の建設費は1kmあたり150億円以上と言われており、モノレールでも70億円以上(同社試算)かかる。
要するに、圧倒的にフットワークよく建設できるのだ。
一方、最高時速は36kmと鉄道などには及ばず、勾配に弱いので、長距離の運行には不向きだ。活用が見込まれるのは、ターミナル駅から1kmから10kmの「ラストワンマイル」の交通インフラだ。路線のイメージは、都市型の新交通、モノレールやLRTに近い。
ただ、上記のメリットを考えれば、もっとコンパクトな運用も可能だ。
例えば、交通渋滞を避けて都心の街から街へ(新宿の新都心から歌舞伎町、渋谷のスクランブル交差点周辺のビルからビルなど)空中を楽々移動できたらどうだろう。都内には鉄道もバスも便がイマイチ、という住宅街は多く、地域を周回して採算をとるような構想も、いろいろな街で可能だろう。
さらに肝心なのは、新しい交通が新たな人流をつくり、街や土地に新たな価値をうむこと。鉄道や道路建設のような大規模事業でなくても、Zipparならはるかにフットワークよく、それができる。
レボンキン氏が具体的な候補地として挙げたのが、沖縄県豊見城市だ。那覇市に隣接し、那覇空港までは5km圏内の立地だが、ゆいレール(沖縄都市モノレール)のルートからは外れる。
とはいえ、近年リゾート開発が進む瀬長島はじめ、地域の魅力は抜群。ここに、那覇空港から12秒間隔で発着するロープウェイが開通したらーー。観光のスタイルも、地域の人の仕事や生活も、大きく変わるはずだ。
その他の観光地や住宅地、イベント施設などにも、交通によって価値向上するモデルが当てはまるケースは、何百、何千とあるだろう。Zipparは、日本の開発、再開発のアイデアを大きく変える可能性を秘めている。
既存技術の組み合わせでできるので、実現性は高く、すでに同社敷地内では実験用の車両が走行している。今後も実証実験を進め、早ければ2026年には社会実装される見込み。第一号が出れば、一気に広がる可能性がある。
「空の上にもう一つの道ができる」という新しい常識。
その先には、中心から少し離れていても、離れているからこそ、その土地ならではの魅力が発揮されるような、新しい街づくりが待っている。
取材・文/ソルバ!
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