「温泉成分」が、水産養殖事業を救う!?
近年、地球の温暖化による海洋環境の変化や乱獲が、漁業に多大な悪影響を及ぼしている。またそうした状況の改善や安定した水産物の確保に向け、養殖業への関心が高まっている。
一方で、養殖ではへい死(病気などで養殖している魚が死亡すること)率が高く、成長促進や疾病対策として栄養剤やワクチン・抗生剤などの投与に頼らざるを得ない状況があり、食の安全性への懸念といった新たな問題を引き起こしている。
中でも養殖が難しいとされてきたのが、免疫力が低いことから病気にかかりやすく成長過程のへい死率が高いのが「ヒラメ」だ。ヒラメの養殖生産量日本一の大分県でも、生産効率の悪さに加え、地球温暖化による赤潮や海水温の急激な変化、さらには燃料と餌代高騰などの理由から、廃業する生産者が増えている。
そうした状況を大きく変えようとしているのが、大分のもうひとつの名物「温泉」だ。古くから、「温泉が体にいい」ことはよく知られていたが、温泉に含まれる微生物が、人間だけでなく魚類の健康にもいい効果を及ぼすことが、最近の研究で明らかになったのだ。
「温泉微生物」効果(1)…ヒラメのへい死率が40%から0%に!
温泉地として名高い大分県別府にて温泉の研究を行う株式会社SARABiO温泉微生物研究所(以下サラビオ)は、別府の温泉の中から発見した新種の藻の仲間、温泉藻類RG92を研究した結果、抗炎症作用、抗糖化作用、抗酸化作用などさまざまな効果があること温発見。その効果に着目し、RG92を天然由来のオーガニック原料とした化粧品の開発に活用していた。しかし一転、養殖業という全く違う分野へ挑戦し、驚くべき成果が現れているのだという。
RG92は、サラビオの研究チームが2011年に別府温泉から発見した新種の藻類。40℃~80℃の高温にも耐えられる極限環境微生物で、ミトコンドリア活性機能や高い抗炎症作用を持ち、2015年に特許を取得している。
2022年4月から水産養殖業者と共同で試験を行ったところ、試験開始8か月後の11月には、通常の餌ペレットにRGエキスを混合して給餌したヒラメは、ペレットのみの個体よりも体重が28%増加。さらに、例年40%前後もあったへい死率が、飼育開始4か月間は0%で、以降も通常飼育個体の半分以下にとどまっているという。
また、エキス給餌個体では、免疫関連因子が活性化し、また皮膚の粘液量が約2倍増加していることがわかった。この免疫関連因子の活性化は50g前後の幼魚でも確認された。サラビオでは、細菌やウイルスなどに対する防御機能の強化が、「へい死ゼロのヒラメ」を生み出したと見ている。
同研究所では「天然由来のRGエキスを使った魚の養殖は、抗生剤投与やへい死による損失など水産業者が抱える経済的負担を大きく軽減できるとともに、残留薬物の懸念がないことや食味の向上など消費者の安全な食への期待にも応えることができると確信している」と語っている。