激戦シャンプー市場に彗星のごとく現れたクリームシャンプー
SNSを使っている人なら、一度は「cocone(ココネ)クレイクリームシャンプー」の広告を見たことがあるかもしれない。2020年に発売して以来SNSを中心にファンを集め、従来から展開している「cocone」シリーズは累計600万個超え、そのうちヘアケアアイテムだけで累計470万個(2020年4月~2023年8月)を出荷している。
coconeクレイクリームシャンプー 3630円(380g)
数字だけで比較すると、BOTANISTをヒットさせたI-neが2021年に発売したシャンプーシリーズ「YOLU(ヨル)」は、1年でシリーズ累計販売数1000万個を突破し、新たなヒットシリーズとなっている。 一方、coconeは3年で470万個。それでも激戦区であるシャンプー市場では立派な売上数だが、数字の大きさだけで比べると見劣りしてしまうかもしれない。
しかし注目したいポイントとしては、YOLUシリーズを代表する商品「YOLU カームナイトリペアシャンプー・トリートメント」は各1540円/475mLであるのに対し、「coconeクレイクリームシャンプー」は3630円/380gもする。
シャンプーはさまざまな価格帯のものが存在し、日常的に使う消耗品は家計にダイレクトに影響するため、消費者の目はシビアだ。価格、仕上がり感、使いやすさ、香り……さまざまな面で納得感がないと、一度は購入してもリピートに繋がらない。そう考えると、いくらはぐくみプラスのSNS戦略が巧みだったとしても、それだけでは3630円もするシャンプー類が売上を伸ばし続ける理由にはならない。
また、BOTANISTなどヒットシリーズを飛ばし続けているI-neは、ドラッグストアなど流通との付き合いも充分にあり、最初から棚を取りやすいであろうことも想像がつく(もちろん、それで売れない場合はシビアにスペースが縮小されるので、その後は商品力がものをいう)。
一方、coconeを販売する「はぐくみプラス」は、自社ECでの直販をメインとするD2Cで成長してきた会社だ。実店舗を持つ流通への卸の経験はなく、coconeのヒットを受けて初めて卸をスタートしたので、それまではほぼ下地なしと言っていいだろう。
それにも関わらず11月14日発表のプレスリリースによると、「ロフト ベストコスメ2023」にて1位の大賞を受賞した。ロフトのベスコスの歴史の中で、ヘアケアアイテムが1位を取ったのは初だそうだ。スキンケアやメイクアイテム、人気商品ひしめくロフトでベストコスメ大賞を取るとは、実店舗でも相当数が売れたことは想像に難くない。
筆者はcoconeで初めてはぐくみプラスという企業を知ったが、一体どんな会社なのか、俄然気になってしまった。ヒット商品を生み出した秘密をさぐるべく、はぐくみプラス 執行役員の此田有紀さんに話を聞いた。
「はぐくみプラス」社員20名弱!大ヒットシャンプーが生まれたきっかけ
はぐくみプラス 執行役員の此田有紀さん
はぐくみプラスは、妊活中から子育て中の女性をサポートするためのサプリや健康食品をオリジナルで開発・販売してきた創業から10年の福岡の企業だ。社員数は20名前後、社員の8~9割は女性だという。
創業のきっかけは、代表である山村昌平さんの妻が妊娠した際に、当時は妊活という言葉もなく、WEB上に情報は多くあるものの、どれが正しいかわからないと悩んだことだった。そこで自社がお客様から信頼される会社となり、「はぐくみプラスなら安心」と思ってもらえるように、責任をもって商品も情報も届けることを決めた。
商品の販売を中心に行っていたが、顧客のライフスタイルの変化に合わせてできることはないかと、今ではフォトスタジオ事業や保育園事業も手がけ、どのポジションのスタッフも全員が「お客様に対して何ができるか」ということを考えながら行動することが浸透しているそうだ。
はぐくみプラスはいくつか商品ブランドを持っているが、ヘアケア・スキンケアブランドであるcoconeは、育児や仕事を頑張っている人が少しでも楽になるようにという想いをこめ、「ひくほど、美しく」という「引き算美容」を掲げている。
coconeクレイクリームシャンプーの開発のきっかけは、それまでメインで売れていたクレンジングバームの新規ユーザーの伸び悩みだった。
理想の髪を実現するには、シャンプーやコンディショナー、ヘアパック、アウトバストリートメントなど、さまざまなアイテムを駆使する必要があるが、子どもと一緒に入浴するママはそこまで手をかける余裕がないことから、次の時短商品としてシャンプーの開発に着手することになった。
coconeクレイクリームシャンプーは3630円の高額シャンプーと冒頭で述べたが、正確にはオールインワンシャンプーだ。オールインワンシャンプーとは、ひとつのシャンプーでいくつもの役割をもつものを指す。
古くは資生堂が80年代終わりに発売したシャンプーとリンスが一体型となった「リンプー」がリンスインシャンプーの始まりだと思うが、そこから30数年経ってうまれたオールインワンシャンプーは、なんとシャンプーとリンスどころか、シャンプー、トリートメント、ヘアカラーケア、頭皮ケア、コンディショナー、ヘアパック、ヘッドスパ、ダメージケアを兼ねる1本8役。
面白い点としては「クリームシャンプー」は、一般的なシャンプーのように泡がたたない。ぬるま湯で頭皮をしっかりすすいだ後に、頭皮をマッサージするようにクリーム状のシャンプーを頭皮と髪全体にはじませ、2~3分放置したのちにすすぐ。
8役の秘密は豊富なミネラルを含むマイクロクレイが汚れをしっかりと落とし、海藻成分やオーガニックオイルなどが、しっかり髪を補修すべく働きかける。なんといっても売れている理由は、洗髪後の手触りの良さにある。
SNSでの評判をチェックすると、泡が立たないことで「洗えているのか?」と最初は不安に思う人も少なくないが、使い始めてからの頭皮のすっきり感や髪の状態の良さで、使い続けているようだ。つまり使い心地の良さリピートに繋がった。説明すると簡単なように聞こえるが開発にはテクスチャ―や洗浄力のバランスに苦労した、と此田さんはいう。
泡の立たないクリームシャンプーという商品自体は、それまでも他社から発売していたが、正直そこまで目立っていた印象はない。はぐくみプラスはなぜクリームシャンプーに踏み切ったのか聞いた。
「通常のシャンプーやコンディショナーは強い競合が多すぎて、勝負できないと思いました。クリームシャンプーは大ヒットこそしていないけど、固定ファンはいて売れ続けているという認識があり、そういうちょっと外れた市場を狙いました。会社としては新規顧客を獲得する商品という位置づけでもあったので、良いものをつくればある程度認知されればいける、という気持ちもありました」。(此田さん)