走り好きの人のためのファミリーカー
イグニッションオンで、直6エンジンが目覚める。8速ATをDレンジにし、スタートする。M3はセンターコンソールに「M MODE」「SET UP」というスイッチがある。これで走行パターンを選択する。
最初は「ROAD」「COMFORT」を組み合わせてみた。SET UPの「COMFORT」はエンジン、シャーシ、ステアリング、ブレーキなどのレベルが選べる。エクゾーストノートもノーマルとスポーツが選べる。こうした設定をひとつひとつ決めていくのもオーナーの楽しみだ。かなりマニアックではあるが、それがM3の魅力のひとつといってもいいだろう。
いよいよ、スタートする。直6、3.0Lターボは、フツーに動き出した。M3コンペティションという車名から想像するよりも、ずっとマイルドに、ATはシフトを繰り返し、車速を上げていく。Dレンジは8速ATだが、7速1200回転あたりで街中を流すように走って行く。乗り心地も若干、ゴツゴツ感や上下の大きめの動きがあるが、コンペティションマシンとは思えないほどマイルドだ。
前モデルで試乗したM3とは次元が違うマイルドさが感じられた。それでも0→100km/を計測すれば、4秒台後半で走り抜けるし、一気に7000回転まで上昇する迫力ある直6エンジンは健在ではある。でもマイルドさにちょっと拍子抜けした。見方を変えれば、それだけ日常の足としても使えるマイルドなクルマになったのだ。
私のイメージしていた硬派の「M3」はどこに行ってしまったのか。ここでコントロールスイッチの存在を思い出した。「M MODE」を「SPORT」に。「SET UP」をすべて「SPORT」に切り替えて、再スタート。
やや野太く、大きくなったエキゾーストノート。アクセルペダルを踏みこむと、加速感が違う。乗り心地も硬め。上下動の振動が小さい。5000回転を目安にパドルシフトすると1速40、2速65、3速で100km/hに達する。これを使いながらワインディングを走れば、若干のロールとクイックなハンドルで、小気味よいスポーツコーナリングが楽しめる。これが、イメージしていたM3コンペティションだ。
でも、コンペティション・ツーリングということに気が付いた。後席のうしろには荷室がある。荷室のサブトランクには、アニマルネットも標準装備されている。リアゲートのウインドも、それだけで開閉するようになっている。ファミリー+ペットでの旅に行くためのツーリングモデルでもあるのだ。
だから、ノーマルモードでは誰もがハンドルを握っても、平和にドライブできるセッティングなのだ。一家+ペットで旅先のホテルにチェックイン。家族が温泉や娯楽施設で楽しんでいるひと時に、M3コンペティションツーリングのモードを「SPORT」にして、一人でワインディングを楽しむ。そういう走り好きの人のためのファミリーカーが、いまのM3コンペティションツーリングなのだ。家族思いで懐に1398万円の余裕がある人に勧めたいスーパーファミリーワゴンだ。
取材・文/石川真禧照 撮影/萩原文博