「伏魔殿化」が招く、組織全体のブランド失墜
筆者は、阪急阪神HDにもう一つ大きな問題があると感じます。冒頭で、歌劇団は同社のコア事業と書きました。すなわち同社幹部にとって、宝塚は問題があっても手を出せない『伏魔殿』になっていたのではないでしょうか?
電車を動かす、不動産の価値を上げるといった商行為と、お客さんを魅了するエンタテインメント事業では必要な才能は根本から異なります。しかも宝塚は利益もあげている。だから阪急阪神HD幹部が歌劇団に口を出そうものなら、宝塚側は「素人は黙ってなさい」「厳しい教育があっての『宝塚』なのよ」と言えてしまう企業風土があったのではないでしょうか。
実はこれ、阪急阪神HDだけの問題ではないはずです。発言力が大きい人物や部門が暴走したり、「今までこうしてきたから」と企業文化を変えない場合、どうすればいいのでしょう?
「ずばり、外部の監査を入れることです。社内で『コンプライアンスは何事にも優先する』という姿勢をきっちり打ち出し、『これがパワハラ、これは指導』と切り分け、パワハラかそれに近い行為を行う人物がいたら厳正に処分し組織を浄化する、これが事前になすべきことだったのではないでしょうか」(前薗氏)
もしかしたら、他山の石とすべき企業は数多くあるのかもしれません。
最後に筆者個人の感想ですが……私のような部外者にも『宝塚は団員がチケットをたくさん売らなきゃいけない(いけなかった)』などと、その厳しさは漏れ伝わっています。前途有望な若者は、なぜ自死まで追い詰められたのでしょう。世間が想像するようにグレーかクロの何かがあったなら、今は組織を浄化する最後の機会。幹部は甘い調査結果にすがらず、痛ましい死と誠実に向き合ってほしいと切に願います。
100年以上観客を魅了してきた宝塚歌劇団の未来のためにも。
取材・文/夏目幸明