【炎上の真相――専門家が見た裏側:第3回】「宝塚」記者会見に見る「社内調査の甘い罠」
大炎上、宝塚の記者会見を解説します
宝塚歌劇団の設立は1913年。以来人気を博し、今や阪急阪神ホールディングスの主要事業と言える売り上げを誇っています。同社ホームページでも、エンタテインメント事業は都市交通事業(鉄道等)、不動産事業、旅行事業に並ぶコア事業と紹介されているほどです。
この「宝塚」が揺れています。詳細は報道も多数あるので省きますが、団員が自殺し、その裏に壮絶ないじめや長時間労働があったのではないかと言われているのです。
宝塚歌劇団に特段の関心はない私でも、教育が厳しい組織だと聞いています。だからこそ高いクオリティのステージを見せていた、とも言えるでしょう。しかし部活でも企業でも、教育が行き過ぎればいじめやパワハラへと転化していくことは想像に難くありません。
これを受け、宝塚歌劇団は11月14日に記者会見を行いました。その結果は「大炎上」。歌劇団幹部はいじめやパワハラを真っ向から否定し、ネットでは「嘘つけ」「遺族ガチギレなの当然」といった声が渦巻いています。
ジャニーズに続いて繰り広げられた「失敗記者会見」、なぜこうなったのかを解説します。
幹部は「社内調査」の結果に飛びついた
筆者が想像を挟むことをお許し下さい。彼らは内部でいじめがあったか調査を行いました。そして調査結果は本当に「パワハラやいじめはなかった」だったのでは? と思うのです。
理由があります。幹部が嘘をついてまで団員をかばう必要が感じられません。むしろ『いじめたのはこの人』とトカゲのシッポ切りをしてもいいはずです。加えて、明確な嘘はリスクが高すぎます。嘘をついたら取り返しがつかなくなりますし、複数人が知る事実を隠し通すことは非常に難しいのです(実際に週刊誌は今、団員や元団員の生の声を聞こうと必死です)。
すなわち、彼らは調査結果をそのまま話しました。しかし、ズレがありました。
そもそもこの段階で誰が『私がいじめました』と言えるでしょう?
ここで、炎上について研究するデジタル・クライシス総合研究所の研究員・前薗利大氏の意見を伺いました。彼が「一般論ですが」と前置きしつつ話します。
「記者会見を開く際、気をつけるべきことは、『“主観的に正しい”と“客観的に正しい”は別物』ということです。どの会社も、幹部は『我々に落ち度はなかった』と思いたいのです。しかしそこに罠があります」
話を「宝塚」に戻します。彼らは調査結果を見て『いや、隠している人間がいるのでは?』と考えるのでなく『やっぱりいじめはなかった』と甘い結果に飛びついてしまったのではないでしょうか?
すると、村上浩爾専務理事が口にした記者会見の歴史に残る迷言も合点がいきます。彼は「その様に(いじめがあったと)仰るなら、(遺族に)証拠を見せて頂ける様に提案したい」と言いました。明らかに調査すべき側が言うべきことでなく、遺族側にとって最悪の発言でしょう。しかし、彼は本当に「証拠はなかった」と認識している、とも考えられるのです。
しかし、世間はこれを許しませんでした。ネットの反応は『じゃあなぜ自殺を?』『その調査、どこまで深くやったの?』というものばかり。しかも会社側のストーリーはすぐ破綻します。記者の「全員にヒアリングしたか」という質問に「4名はヒアリングに応じていません」と回答したのです。ネットでは「そいつらじゃね⁉︎」といった怒りの声が渦巻きました。
ここで正解だったのは何でしょうか?
「これも一般論ですが、性急に結論づけず『現在、より詳細な調査を行っております』とすべきだったかもしれません。問題を明確に否定してしまうと、あとに引けなくなってしまうからです」(前薗氏)
記者会見でもし「いったん調査をしましたが、現状、いじめの事実は見つかっていません。しかしヒアリングに応じてない団員もいるため、より詳しく調査を行います」としていれば、このような大炎上にまでならなかったのではないでしょうか。
そして、もっと突っ込んだ調査を行い、本当にいじめがなかったと誰もが納得できるようになったらこれを公表する、グレーかクロならいじめの現場になった組織を解体し幹部は辞職、今後はコンプライアンスにのっとった運営を行い、遺族には手厚く保証します、とすれば、世間は『できる限りのことはやったんだな』という印象を受けたはずです。
「世間は大企業側には立ちません。つらいめにあったのでは? とされる側に立って記者会見を見るものなんです」(前薗氏)
阪急阪神HDのような名門企業さえ大炎上してしまう原因はこの認識のズレにあるのです。