世界11か国で人材紹介事業を展開するジェイ エイ シー リクルートメントは、日系海外子会社221社を対象に「女性海外駐在員」に関する調査を実施。結果をグラフにまとめて発表した。
女性活躍推進は日本にとって大きな課題だが、回答企業のうち海外駐在員として女性が赴任している企業はわずかに19%で、海外駐在員としての女性の起用はまだあまり進んでいないことが明らかになった。
しかしながら、今回アンケート調査とともに現在海外に赴任している女性駐在員へのインタビュー調査を行った結果、相対的に女性は海外志向が強く、高い意欲を持って業務にあたっていることが判明。多くの企業で駐在員候補となる人材不足を課題とする中で、意欲ある女性の起用が解決策となることが推察できる結果となった。
回答企業のうち19%の企業(海外子会社)で女性が駐在員として赴任
海外子会社で駐在員として赴任する女性が「1人以上いる」と回答した企業は19%。業種別では、製造業の13%、非製造業の26%で女性が駐在員として赴任していた。
■「女性活躍推進に対する取り組み」は本社では77%実施しているが、海外拠点での実施は41%
親会社である日本本社における女性活躍推進の取り組みの有無を聞いたところ、77%が「行っている」と回答したが、女性駐在員の派遣の有無との相関関係は見られなかった。
また、海外拠点内でも女性活躍推進の取り組みを行っている企業は41%にとどまった。
■「海外駐在に適した資質を持つ人が少ない」「社内に海外駐在希望者が少ない」ことを課題視
男女問わず海外駐在員の派遣について、現状で企業が課題視していることを聞いたところ、「海外駐在に適した資質を持つ人が少ない(26%)」「社内に海外駐在希望者が少ない(25%)」が上位を占め、駐在の条件よりも駐在員の候補となる人材について課題を抱えていることがわかった。
■全体の約3割の企業が海外駐在員派遣に対して「現状と方針を変える予定はない」
海外駐在員の派遣に関してさまざまな課題を感じている一方で、海外駐在員の派遣に関する「現状と方針を変える予定はない」としている企業が全体の約3割を占めた。
調査結果解説
ジェイ エイ シー リクルートメント 海外進出支援室アドバイザー 小林美紗 氏
上記のアンケート調査とあわせて、現在海外に赴任中の女性駐在員5名にインタビューをしたところ、女性駐在員を増やすためのヒントを得ることができました。
インタビューした5名はいずれも海外駐在以前に、海外留学や海外就職など自発的な海外経験を積んでおり、「本人の強い意志」で海外駐在の機会を獲得していました。
留学や海外就職など、自発的に海外に渡る人の割合は男性に比べて女性の方が高く、意欲(海外志向)ある女性の起用は海外駐在要員不足という慢性的な問題を解決する一助となるものと考えます。
既婚女性の場合は、夫の仕事(勤務先)との兼ね合いが難しいことや子どもの学校の関係で帯同ができないなどの家族の問題もあります。インタビューした女性駐在員のうち2名は既婚者で、そのうち1名は夫が勤務先を休職し妻に帯同しており、夫の勤務先は、妻の海外駐在への帯同に伴う休職を認めている先進的な取り組みをしている企業でした。
もう1名は夫を日本に残して単身で赴任していましたが、いずれのケースでも「家族の理解・協力」が、海外駐在実現のポイントのひとつとなっていました。
また、個々の企業においては、現行の制度・規程や習慣が、男性が派遣されることを前提に作られたものである場合が多く、見直しを図っていく必要があります。
今回のインタビューにもあった「駐在夫」の制度は、男性の育児休暇が一般に広まってきたように、今後導入が進む可能性があると思われます。ただし、駐在任期は通常3〜5年と育休に比べて長く、それだけの期間キャリアを中断することを許容する企業は現時点では少ないため、育児休暇よりも普及には時間を要するものと思われます。
今回の調査から、「本人の強い意志」「家族の理解・協力」によって女性の海外駐在が実現しているケースが多く、積極的に促進している企業は限定的であることがわかりました。
女性の意思や環境に頼るのではなく、企業の積極的な支援や、以前からある男性向け制度・規程の見直しが必要ではないかと考えます。「女性活躍推進」「海外事業要員確保」の2つの課題に対し、女性海外駐在員の創出は今後注目されるべき解決策ではないでしょうか。
調査概要
調査期間/2023年6月~9月
調査方法/Web上のアンケート、またインタビューを用いて調査
調査対象企業数/221社
インタビュー人数/5名 ※日系企業から派遣されている現役海外女性駐在員
関連情報
https://corp.jac-recruitment.jp
構成/清水眞希