ビジネス会議の常識が変わるかもしれない。経営者や管理職に就くビジネスマンが直面する悩みの一つが「正しい会議のあり方」だ。事前に作成した資料を読むだけで終わる、議長以外は一言もしゃべらない、大事なことは事前の根回しですでに決まっている……会議が形骸化されていると感じている人も多いのではないだろうか。
経営者から若手まで自由で活発な発言を重ねイノベーションを生み出すにはどうしたらいいか。こうした悩みをサポートする活動をしているのが電通の「Future Creative Center」だ。
彼らは会議をプロデュースする。それは会議を進行するだけのファシリテーターとも、ソリューションを用意するコンサルティングとも違う。参加者一人ひとりの中にあるアイデアを引き出す「クリエイティブ・リード」という考えで会議をプロデュースするのだ。そして「クリエイティブ・セッション」という次世代の会議スタイルを作り出そうとしている。
今回はDIME編集部が実際にその会議を体験してわかった、彼らが生み出す新しい会議の魅力を紹介しよう。
取材に協力いただいたFuture Creative Centerのメンバーの皆さん。今回はセンター長の小布施典孝さん(中央)とゼネラルクリエイティブプロデューサーの増原誠一さん(左)を中心に話しを聞いた。
クライアントの未来をつくるクリエイティブ集団
――「Future Creative Center」は、どのような組織なのでしょう?
小布施 Future Creative Centerは電通の中にある横断組織です。電通と言えば「広告」の印象が強いと思いますが、クライアント企業の事業成長をご支援する中で、デジタル施策やコンサルティングも含めたあらゆる領域に事業を拡張しています。その中で、私たちの活動領域は名前の通り「未来」です。クライアントの未来づくりのためであれば、どのような内容でもお手伝いさせていただきます。
小布施典孝(こぶせ・のりたか)さん
株式会社電通
Executive Creative Director
Future Creative Center センター⻑
――活動領域が「未来」とだけ聞いてもあまりピンときませんね(笑)。未来づくりのためにコンサルティングをするというイメージなのでしょうか
増原 活動内容を規定しすぎてしまうと、時代の変化で身動きがとれなくなっていきますからね(笑)。
私たちがしていることはコンサルティングとも少し違うのではないかと思っています。未来づくりに向けて、クライアントと一緒に探索しているイメージかも知れません。正解を提示するのがコンサルティングだとすると、私たちは正解を引き出していく。そこにクリエティビティを活用しているように思います。
増原誠一(ますはら・せいいち)さん
株式会社電通
General Manager / Integrated Creative
――「正解を引き出す」ですか。具体的な事例をお伺いした方がイメージが沸くかもしれません。具体的にはどのようなクライアントと、どのようなお仕事をされているのですか
小布施 そうですね。例えば、2023年3月に北海道に開業した『北海道ボールパークFビレッジ』の仕事では、6年前にコンセプトやビジョンを描くところからお手伝いをさせていただいています。「世界がまだ見ぬボールパークをつくろう」という合言葉を設定したのち、球場の中にサウナやホテルやブリュワリーをつくるというアイデアも、構想フェーズをお手伝いしている中で生まれてきました。
増原 Future Creative Centerを代表する仕事のひとつかもしれません。すでに完成したモノではなく、モノが完成する前から、未来を思い描いている人と並走するというプロジェクトですね。
©H.N.F.
新しい会議のカタチ「クリエイティブ・セッション」とは?
――プロジェクトの中でFuture Creative Centerはどのような役割を担うのですか
小布施 様々な立場の人が参加するプロジェクトほどよくあることだと思いますが、参加者みんなの合意をとるために、誰も否定できない大概念、もしくは全部入りをコンセプトと呼んで、前に進めてしまうことで、極めて「ふつう」になってしまうことがよくあります。
増原 大きなプロジェクトではコンセプトが複数あるという事例も多々あります。いわばコンセプトの「迷宮化」です。そのままふわっと進んで、当事者たちも何がやりたかったのか分からなくなってしまうパターンです。
小布施 そういう時には、参加者に言葉だけじゃなく絵を描いてもらったりもしながらイメージをどんどんと具体化していくんです。そうすることで、イメージが具体化されより解像度を上げることができます。そしてそこに私たちも一緒になってアイデアを重ね、育てていくことで、みんなが目指したいものにどんどん昇華していきます。なので、誰もが否定できないものをつくるのではなく、誰もがやってみたいものをつくっていく、そんなお手伝いをしているイメージです。
増原 人のやりたいことを引き出しカタチにしていく、これは「クリエイティブ・リード」と呼ばれる手法です。私たちは未来づくりには欠かせない考え方だと感じています。未来をつくるのは結局のところ人の意思だと考えているからです。
――多くの企業、ビジネスマンにとっても有益な手法だと感じます
増原 そうですね。実際に、企業の未来設計図をつくる会議などをお手伝いさせていただくことも多いです。「こんな会議がしたかった」と、特に経営陣から言っていただくことも多いですね。
小布施 会議には様々な種類があって然るべきだと思いますが、合理性効率性が求められる「仕分ける会議」の多さに比べると、発想のストレッチが必要とされる「生み出す会議」が少ない状況なのではないかなと思っています。私たちはそれを変えたいと思っています。「生み出す会議」としては、提案をもらうプレゼンテーション型(でも一方通行になりがち)と、参加者みんなでアイデアを量産するワークショップ型(でも浅くなりがち)とがあると思いますが、私たちが目指しているのは、それらとは違うものです。深く対話し、創発し、研磨するセッション型。まだまだ深掘り途中ですが、「クリエイティブ・セッション」という新しい会議のカタチとして確立していきたいなと考えています。
DIME編集部がクリエイティブ・セッションを実際に体験
気付いた3つの大切なポイント
彼らが提案するクリエイティブ・セッションは果たして本当に活発な会議が可能になるのだろうか。そこで11月某日、DIME編集部が「DIMEの未来を考える」をテーマに実際に体験してみることにした。本来は長期間かけてクライアントのビジョンを具現化し形にしていくものだが、今回は体験ということでクリエイティブ・セッションの触り部分のみ、実際どのような会議が行なわれたのかを紹介するとともに、クリエイティブ・セッションに欠かせない3つのポイントを紹介したい。
①参加者一人ひとりが主役になるための空間づくり
「クリエイティブ・セッションは会議の参加者全員で作り上げる必要があります。そのため会議の冒頭、私たちは未来をたぐりよせる3つの所作として『うなずく・書き出す・重ねていく』を実践してくださいと伝えてえています」(増原さん)
まず初めに伝えられた「うなずく・書き出す・重ねていく」
役職や年齢に関係なく、全員が同じ距離感で会議に参加する
「みんなが頷きながら話を聞いてくれるので、もっと自分の意見を話していいんだと思えた」と語る副編集長(中央)
②「なんとなく」で終わらず、全員の共通認識になるまで話し合う
「会議において『抽象』と『具体』はすごく大事です。どちらが欠けてもいい会議にはなりません。例えば『他社を凌駕する!』と力強い言葉があっても、一方通行の会議では『凌駕とは具体的に?』と掘り下げることはありません。
こうした抽象的な言葉を『Aさんにとって凌駕とは何ですか?』『最近、私生活で凌駕を実感したことはありますか?』と尋ねると、その人なりのイメージが具体化されます。しかし、そのイメージはBさん凌駕とは全く違ったものだったりする。抽象的な表現をより具体的なイメージに変換し掘り下げていくと、次第に各人が持っているイメージの共通項が見つかります。それをまた抽象概念に戻すと言葉の解像度が上がり、はじめは『凌駕』という抽象的だったワードも、より具体的なワードとして表現できるようになり、全員で共有できるようになるんです」(小布施さん)
オンラインと雑誌を中心に展開するメディアであるDIME。「情報としての役割はWebに任せ、雑誌の『DIME』はもっとカッコよく、部屋に飾りたくなるような価値を目指すべきでは?」と先陣を切って発言をする若手編集者
すかさず「カッコいいとは?」と切り返す小布施さんに対し、今のDIMEのイメージを表す具体的な車種名が出てきて、さらに議論が白熱する場面も
③言葉だけでなく、視覚からのイメージも大切にする
「思考に制限をかけないことも大切です。出てきたアイデアを次々にアウトプットし、積み重ねることです。安易に結論を出すのではなく、アイデアを重ね、広げていく。
そのために私たちは言葉だけでなく、時にはビジュアライズしながらアウトプットしていきます。そうすることで、うまく言語化できないイメージも共有できますし、連想ゲームのように次のアイデアを重ねることにも役立ちます」(増原さん)
会議中の発言は逐次、イラストにし可視化していく。グラフィックレコーダーの中尾仁士さん
「これまでの通りのDIMEと、コアなファンを開拓するカッコいいDIME。2種類のDIMEを作ってもいいのでは」と若手の意見に被せるDIME編集室室長
「裏表紙だけスタイリッシュにしてみたら?」と別の角度から、意見を述べるベテラン編集者
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クリエイティブ・セッションを体験し、現役のビジネスマンはどのように感じたのだろうか。世の中の管理職を代表し、DIME編集長は次のように語る。
DIME編集長
「普段の会議では全員に発言の自由はあっても、発言が特定の人に偏ったり、上司からの一方的な通達になりがちですよね。我々の会議もそうでした。
今回のように第三者がいて、どんどん発言を引き出してくれると自然と自分の意見も言いやすくなりましたし、参加意識も高まったように思います。若手も室長も同じ目線で発言していたのがすごく新鮮で、会議そのものが楽しく感じました。我々の場合、企画についての相談やブレストはよく行いますが、『DIME』そのものについて考える、これだけ大きなテーマについて、この人数で時間をかけて話す機会は今まであまりありませんでした。そういった意味でも今日はみんなの意見や課題意識を聞けてとても参考になりました。
会議を運営する立場になると、最近の会議が盛り上がらないとか、書類を読み上げるだけになってしまうとか、いろいろ悩みを抱えていると思います。今回のクリエイティブ・セッションでは会議の在り方を見直すきっかけにもなりました。なんとなく慣習で続けている会議も意外と多いのではと改めて感じます。マンネリ化を感じているなら、別のスタイルを試してもいいのではないでしょうか。DIME編集部でも定期的にこういった会議を是非やっていきたいですね」
取材・文/峯亮佑 撮影/タナカヨシトモ