『合同会社』の設立件数は、年々増加しています。いつからどのようにして認められた会社形態なのでしょうか?合同会社の特徴や定義を解説します。さらに、合同会社を設立するメリット・デメリットについても確認しましょう。
合同会社とは?
会社には複数の形態があり、合同会社はその一種です。主な特徴や、向いている事業形態について確認しましょう。
■米国のLLCがモデルの会社形態
合同会社は、2006年の会社法施行により新設が可能となった会社形態です。米国の『LLC(Limited Liability Company)』をモデルとして制度が作られました。
会社に出資した人が『社員』となり、経営も行う持ち分会社(所有と経営が分離していない会社形態)です。持分とは、社員となり会社の意思決定に参加できる権利を指します。なお、株式会社において社員といえば『従業員』を指すのが一般的ですが、合同会社における社員は出資者であり経営者でもある点が大きな違いです。
日本での設立件数は増加傾向で、2022年の設立件数は3万7,127件です。手続きが比較的容易で、資本金1円からでも設立できます。
外資系企業で見かけるケースが多く、例えばGoogle・Apple・Amazonの日本法人が合同会社の形態を選択しているのは有名です。 現時点で新しく設立できる会社形態は、合同会社のほかに株式会社・合名会社・合資会社があります。
出典:登記統計 商業・法人商業・法人登記(年計表) 会社及び登記の種類別 会社の登記の件数 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口
■合同会社に向いているのは
2006年の会社法施行によって、資本金1円からでも会社を設立できるようになり、起業のハードルは低くなっています。中でも合同会社は、設立のコストや手続きの簡易さから、スタートアップ企業や個人事業主の法人化におすすめです。
新しい会社形態ということもあり、知名度や信頼度は株式会社と比較してやや低いといえます。会社同士の取引を伴うBtoB事業に比べると、一般顧客向けのサービス業に適している会社形態です。
サロンやカフェのように、個人に対してサービスや商品を提供するBtoC事業であれば、合同会社を設立するのもよいでしょう。
合同会社の特徴
合同会社にはいくつかの特徴があります。会社の仕組みを知るため、それぞれ確認しましょう。株式会社と比べながら、仕組みの相違点を見れば理解しやすいはずです。
■有限責任のみを負う
合同会社の出資者であり経営者でもある『社員』は、会社の債務に対して有限責任を負います。
有限責任とは、出資した金額の範囲内で、会社の債務に対して責任を負うことです。設立した会社にトラブルや負債が発生した場合に、出資金が戻ってくる保証はありませんが、それ以上の負担はありません。株式会社における役員に相当する『社員』は、全員が有限責任を持ちます。
1人につき1円からでも会社の設立は可能ですが、取引先や銀行に対する信頼度を高めようとすると、ある程度の資金提供は求められるでしょう。
株式会社の株主と似た仕組みです。株主も、合同会社の出資者と同じように有限責任を負います。出資した株式はトラブルや倒産によって価値がなくなる可能性がありますが、出資した金額以上の負債を負うことはありません。
■出資者全員が議決権を持つ
合同会社では、定款による定めがない限り、社員である出資者全員が1人1票の議決権を持ちます。会社の意思決定には、原則として出資者の過半数の同意が必要です。
会社の経営方針や出資者の人数によっては、定款で代表社員を定めるケースもあります。代表社員は代表権を持ち、会社を代表して意思決定を行う社員です。代表社員は複数設置でき、代表社員を設定しない場合は、社員全員が代表社員としての権限を持ちます。
社員全員の意思確認を行うのが難しい可能性があれば、あらかじめ定款で代表社員を決めておくと経営上の意思決定がスムーズになるでしょう。
しかし、出資金の範囲で有限責任を持つ以上、出資者は経営に関わるのが基本です。出資はするものの経営には関わりたくない出資者が多い場合や、人数が多く話をまとめるのが難しい場合には、株式会社を検討してもよいでしょう。
■決算公告が不要
決算公告は、定時株主総会後、債権者や投資家に向けて株式会社が財務情報を知らせる公告を指します。合同会社には、決算公告を行う義務はありません。
株式会社には毎年決算公告が義務付けられているため、官報や日刊新聞紙、会社の公式サイトの電子公告などで決算公告を行う必要があります。
合同会社であれば、外部への報告義務がない分、手間を減らすことが可能です。ただし、合併・吸収・組織変更など、法定公告による開示が義務付けられているものは、合同会社であっても公告を行わなければなりません。「債権者保護手続き」としての公告をする場合は、どの公告を選択していたとしても必ず「官報」で行う必要があります。
合同会社を設立するメリット
合同会社の設立には、コストや手間の面でメリットがあります。また経営方針によっては、合同会社を選択する方が意思決定がスムーズです。具体的なメリットを紹介します。
■設立や運営に必要なコストが安い
合同会社は、株式会社に比べると設立や運営にかかるコストが安い点がメリットです。
合同会社の設立には、主に登録免許税や定款用収入印紙代がかかります。電子定款であれば、収入印紙代は不要です。設立に要する費用は6万〜11万円程度が目安となります。株主会社の場合、定款の謄本手数料や定款認証料も加算され、設立費用は20万〜25万円程度です。
設立の手続きを司法書士に任せるとその報酬が上乗せされますが、株式会社の半分程度のコストで新規に設立ができます。
運営面でも、決算公告や役員の登記費用、株主総会の開催費用がかからず、低コストです。公告や登記の費用は数万円が目安ですが、株主総会の開催費用は規模が大きいほど高額になります。
■定款の認証が不要
合同会社の設立時には、定款の認証が不要です。定款の認証は公証人にしかできず、手間やコストがかかります。
株式会社の場合、定款の認証は必須です。本店所在地を管轄する公証人役場を把握しておき、手続きを進めなければなりません。自分で手続きをする場合には、公証役場へ出向く必要があります。
定款の認証にかかる数万円のコストや、公証人に認証を依頼する手間や時間を節約できる点は、メリットといえるでしょう。
■経営の自由度が高い
利益分配や意思決定において、合同会社は自由度が高く設定されています。株式会社の場合、保有している株式数に応じて利益が分配されますが、合同会社は定款で規定しておけば比率の設定が自由です。
また、意思決定は出資をした社員の話し合いによって可能で、株式会社のように株主総会を開く必要はありません。会社内で自由に重要事項を決定できる点は、合同会社を設立するメリットです。
■株式会社への移行が可能
会社の設立後、経営状況に応じて会社形態を変更したいと考えるケースもあるでしょう。合同会社は、株式会社への移行が可能です。
株式会社に移行すると、株式を発行できるようになります。投資家からの出資を受け、資金を調達できるのは魅力的です。知名度の高い株式会社への移行は、取引先や銀行からの信頼を高める目的でも適しているでしょう。
移行の場合、株式会社を設立するよりもコストが安くなるのが特徴です。合同会社の設立と組織変更にかかる費用を足しても、株式会社を新規設立する場合に比べると若干コストが小さくなります。
合同会社を設立するデメリット
合同会社は設立や経営に要するコストが安く、起業のハードルが低い点が魅力ですが、デメリットもいくつかあります。事業形態や経営方針によっては、別の会社形態を検討する方がよいでしょう。一般的な問題点を紹介します。
■信用度の低さや資金調達の難しさなど
合同会社は、企業間の取引や銀行からの信頼度がやや低い点がデメリットです。会社の形態による問題というよりは、小規模事業者が多いイメージから、資金力のない会社を想像する取引相手が多くなる点は否めません。
また歴史が浅く、設立件数が株式会社よりも少ないため、認知度もそれほど高くありません。資金を広く募れる株式会社と比べると、資金調達も難しいといえるでしょう。
社員全員が出資者になるという形態から、社員間にトラブルが起こった場合に、問題が大きくなりやすいのもデメリットといえそうです。
文/編集部