■連載/阿部純子のトレンド探検隊
「LifeWear =新しい産業」をビジョンに掲げるファーストリテイリングは、持続可能性と事業の成長を両立する新たなビジネスモデルへの転換を進めている。
必要とされるものだけをつくり、服の生産から輸送、販売までのプロセスで環境や人権が守られ、商品の販売後もリユースやリサイクルなどを通して、循環型の社会を実現することを目指している。
長く愛される服づくり「LifeWear」へのさまざまな取り組み
同社のサステナビリティの主要領域における2030年度目標に向けた取り組みの進捗、生産から商品開発まで各領域で進む事業を持続可能にしていく新たな取り組みを紹介する発表会が開催された。
同社は2001年に社会貢献室を発足しサステナビリティに関する取り組みがスタート、温室効果ガス排出量削減の取り組み、生物多様性、ダイバーシティ推進、難民支援、次世代支援と地球を取り巻く環境や労働問題に取り組んできた。
2003年のJFAユニクロサッカーキッズ、2004年の取引先工場の労働環境モニタリングなど、20年を超え継続している活動もある。
〇物理的サステナビリティ
長く着られる耐久性、着心地、環境への配慮をした服を目指す物理的なサステナビリティ。国内だけでなく世界でも通用する品質を担保するため、総合的な観点から商品の完成度を追求し、数年経ても劣化しない、色落ちや縫製などさまざまな観点で何度もサンプルを作り、物理的、科学的視点でチェックしていく。
「生産は限られた工場との長年のパートナーシップにより高水準の品質を実現しています。
パートナーシップを結んでいる工場とは結婚したのも同然。我々からもいろいろなお願いもしますし、それに応えてくださる工場とは、長いお付き合いでどんどん関係を深めていき、互いにクオリティを高めることによって商品の生産のレベル、そして完成度を上げていきます。
上海の工場には、生産部、デザインチームを含め総勢300人ほどいますが、主要工場に関しては常駐もしくは週3日は工場に行き、正しい品質、正しい縫製、正しいデザインで商品が出来上がっているかどうか、最終的な品質管理は自らの目で確認しています」(ファーストリテイリング グループ上席執行役員 勝田幸宏氏)
〇情緒的サステナビリティ
「シンプルなシャツやチノパンといったベーシックなものなら長く着られるとみなさん思うのではないでしょうか。しかし必ずしもシンプルでなくても完成されたデザインなら長く着ることができます。
2008年に発売されたユニクロとアレキサンダーワンのコラボレーション商品は、上が伸びる素材のカットソーで、下が東レと開発したシルクのような風合いの合成繊維。当時は異素材との組み合わせはまだ珍しく、独創的なデザインでした。
我々も初めて見たときは売れるのか心配でしたが、2時間でこの商品は完売しました。実は娘が高校生だったときにファッションに目覚めこの服を買いました。3900円ほどだったと思います。その後、大学生、社会人になってもことあるごとにこの服を着ており、母となった現在でもまだ持っています。デザインもきちんと完成されていれば長く続く。15年経った今でもこの服はまだ生き続けているということですね。
このような服や値段という枠を超えた、人生に寄り添えるようなデザインと、物理的なサステイナビティと組み合わせることによって、長くみなさんに愛される服づくりを目指しています」(勝田氏)
〇改良重ねてマスターピースを作り出す
年間を通じて販売される定番商品も改良を重ねることで、販売量が約2倍に拡大。スウェットプルパーカは表面の目の細かさやなめらかさだけでなく、裏面にもこだわったスウェット生地を使用。毛羽立ちの少ない糸を2本撚った糸を使うことで、洗ってもクタッとしづらく、長くきれいな形を保ち着続けられる。
ニット製品でユーザーから多く寄せられている声が「チクチクする感じが苦手」。このニーズに呼応して開発したのがスフレヤーンニット。糸に特殊な起毛をかけることで、柔らかな風合いとチクチク感がほとんどない商品を実現し、着心地の良さと暖かさから高評価を得た。さらに着心地の良さを追求すべく現在も改良を続けている。
〇未来のマスターピースを生み出す
夏の代名詞となったのが「感動パンツ」。プロゴルファーのアダム・スコットとアンバサダー契約した際に、軽量、速乾、よく伸びて、かつ見ためはコットンのような上質なズボンが欲しいとリクエストされたことから生まれた。
感動パンツでの素材は今ではジャケットにも使われて、メンズだけでなくウィンメンズにも拡大している。
女性の防寒下着をユニクロ的に解釈して生まれたヒートテックは、2003年から販売を開始しグローバルで約15億枚販売した。ヒートテックやウルトラライトダウンの登場によりトップスの着用枚数は5枚から3 枚へ減少(1990 年比)。着ぶくれせずに暖かさを得られる商品として冬の定番に。ヒートテックはタートルネックTなど、下着だけではなく見せる服としても進化している。
〇リサイクル素材や商品リサイクルの観点からの商品開発
2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材など温室効果ガス排出量の少ない素材に切り替え、商品企画の段階から品質や機能性の改善と同様の位置づけで、リサイクル素材の利用、商品へのリサイクルの可能性を検討する。現在のリサイクルポリエステル使用比率は30%(前年比 +14.5p)。
ヒートテック、パフテック(後述)を共同で開発している東レ GO事業部担当課長 森章恭氏はこう話す。
「ヒートテックは今まで進化してきた特殊なポリエステルが使用されていますが、従来のポリエステルでは、ヒートテックの滑らかさや柔らかさというものを出すのが難しく、その特殊なポリエステルをリサイクル原料で作るということはさらに困難でした。
廃棄物が元になるリサイクル原料には、生産を阻害するような不純物が含まれています。糸の品質が安定しなかったり、糸を引くときのフィルターが目詰まりしたりとトラブルが多発しましたが、異物を除去する工程を強化して原料の純度を極限まで高めることで、特殊なリサイクルポリエステルの生産を実現することができました」
天然素材に替わる新たな化繊開発も強化しており、今年登場したのが東レと共同開発した「パフテック」という素材。ダウンと同じような軽さや保温性で、自宅で洗えて使いやすい。
「近い将来に起こり得るかもしれない、ダウンが使えなくなる事態を想定して、お客様がダウンで得ている快適さを、ダウン以外の素材でどう提供できるかに取り組んで最中です。
実際のところ、ダウンと比べてパフテックは、ダウンを完全に凌駕しているところまでは行きついていません。しかしデザイナーから見てもとても魅力的な素材で、可能性を非常に秘めている素材。お客様にお試しいただきご評価に真摯に耳を傾けて、お客様が評価していただけるのであれば続けていきますし、評価いただけないのであれば、さらに改良してダウンに替わる素材として進化させていきます」(ファーストリテイリング 取締役 グループ上席執行役員 柳井康治氏)
〇RE.UNIQLO STUDIOの拡大
昨年から取り組んでいる店頭での服のリペア・リメイクサービス「RE.UNIQLO STUDIO」。10年以上着用したデニムを、擦れたり、穴の開いた部分に刺し子やパッチを当てて新たに着てもらえるようにリペアしたり、アップサイクルとして、前橋の店舗で限定で出したダルマの刺繍を施したジャケットも提供している。
RE.UNIQLO STUDIOは、コロナ禍の2021年にドイツの店舗で客とスタッフが服のアップサイクルを行ったことからスタート。ロンドン、パリ、上海、東京など16の国と地域に35店舗で展開している。2024年にはグローバルで50店舗以上にRE.UNIQLO STUDIOを導入する予定。
〇UNIQLO 古着プロジェクト
トライアル第1 弾として10月にポップアップストアを原宿店で開催。回収した古着をオーバーダイと呼ばれる、染め直してリメイクした古着や、洗浄済みのリユース古着を販売した。
「回収した服は綿素材が多かったのですが、オーバーダイをすると、ポリエステルの糸が白く残りビンテージ感が出て、一点もののような商品になりました。また丁寧に洗濯をして提供させていただいた古着は2000年代ぐらいに作られていたもので、昔のユニクロのタグがついており、デザインも今店頭と出ているものは少し型が違いますがそこが魅力でもあり、今の方が時代に合っているような洋服だとわかりました。
タイムレスにお客様に大切に長く着ていただくということが、古着を通じてユニクロの品質の良さにつながっていると古着プロジェクトを通じて感じました。
お客様の声や、どう受け止められるかを聞きたいとトライアルした試みですので、利益の一部を地域で活動を行う社会福祉法人に寄付をして、地域で子どもたちを支える活動に使っていただいています」(ファーストリテイリング サステナビリティ部 部長 黛桂子氏)
〇回収した服を新たに断熱材としてリサイクル
回収された服を30%使用した断熱材を建物の周りに施した、ユニクロの服を「着た」店舗「ユニクロ前橋南インター店」が4月にオープン。
前橋南インター店では、同社の環境に対するさまざまな取り組みを実施している。店舗において最もエネルギーを消費する、照明や空調のための消費電力を抑えるために採光窓を設け、太陽光パネルを設置、着なくなった服を断熱材として活用するのもそのひとつ。従来の店舗に比べ約4割のCO2削減を想定し、環境に配慮したプロトタイプの店舗として位置付けている。
【AJの読み】不要になった衣服は店舗に戻すという意識を持とう
ファーストリテイリングでは回収した服を素材として再生するほか、リペア・アップサイクルや、ダウン、コットン、カシミア、ウールといった環境負荷が大きい天然素材は服から服へのリサイクル、代替素材の開発など、服を循環させる方法を多様化させている。
ユニクロの服といえば、かつては古くなったら捨てるという感覚だったが、回収ボックスが設置されるようになってから、筆者も捨てずに戻す行動に変わった。
経年劣化が少なく長く着られる、不要になったときは回収してリサイクルなど、服を捨てないさまざまな施策を打ち出しているが、前提として、服が店に戻って来なければ始まらない。
ユニクロ、ジーユープラス、セオリーとファーストリテイリングのすべてブランドで、店頭で衣服の回収をしている。「不要な衣服は店舗に戻す」という生活者の意識改革も必要になるだろう。
文/阿部純子