日本のライドシェアは「タクシーの亜流」に?
また、「世界のどこへ行っても同じアプリを利用できる」という大手ライドシェアサービスの持ち味に日本は全く関心を示していないという点も挙げられる。
「地方ではタクシーの台数が少なく、それを補完するためにライドシェアを導入する」とも言われているが、それは同時に日本人が得意とする「ローカル化」のゴングでもある。
その地域での運行に特化した「おらが村のライドシェア」が乱立し、しかもそれぞれに互換性が全くない……という事態はAI相乗りタクシーで既に見られる。
現状において、神奈川県が「神奈川版ライドシェア」の検討会議を行っている。この会議の資料は、神奈川県が公式サイトで公開している。
この神奈川版ライドシェアは、まずは三浦市での実証実験を目指している。「神奈川版ライドシェアのポイント」として、
・タクシー会社による運行管理
・時間帯、地域限定
と、記載されている。ライドシェアのドライバーは、何とタクシー会社が面接をして研修を経たのちにドライバー登録する仕組みだ。利用料金も「タクシー会社と相談の上、検討」とある。
日本におけるライドシェアは、敢えて悪い言葉を使えば「タクシーの亜流」になりそうだ。
どんなアプリが誕生するのか?
このライドシェア構想は、そもそもどの方向を見据えているのかという点も未だ不透明である。
生活の足としてのタクシーを必要としている地方在住者にとっての利便性を想定しているのか、または日本を訪れた外国人観光客の利便性を想定しているのか。
その両方の需要を叶える方法は、筆者の貧弱な頭脳では全く思いつかない。地域限定のサービスと化した日本版ライドシェアのアプリをインストールしようと考える外国人観光客は、決して多くはないはずだからだ。
そして神奈川県が公開しているPDF資料を読んでいくと、「ライドシェアは誰が運行・管理するのか」という言及はあるが「ライドシェアの車両を呼び出すアプリはどのように設計するのか」という言及は見当たらない。ライドシェアサービスで最も重要なのはアプリのはずだが……。
このあたりの問題について、第1回神奈川版ライドシェア検討会議の議事録に興味深い発言記録があった。発言者はいづみタクシー代表取締役の八木達也氏である。
あとドライブレコーダーや配車アプリということですけれど、三浦市の弊社のですね、GOをアプリ入れております。それとタクシー無線を入れておりますけれども、全迎車の95%が電話のタクシー無線です。
GOアプリは何と5%以下。これは先月の数字です。ほとんどアプリ使いません三浦市民。夜アプリを限定しようということで、もしかしたら飲み客とかもうちょっと進んでる可能性ありますけれども。
これが倍の10%になるとも考えられず、なかなかアプリのその敷居が高いのが三浦市民ですので、ここありきということが一番考えやすいんでしょうけど、ちょっとそこのところを認識された方がいいかなというところです。
(第1回神奈川版ライドシェア検討会議議事録)
たったひとりの会議参加者の発言を基にあれこれ推測するのは危険である。が、このあたりの問題提起に日本の地方行政特有のユニバーサルサービスが作用した場合、神奈川版ライドシェアは配車アプリの開発よりも電話で呼び出す仕組みを優先的に整備することになるのではないか。
となると、ライドシェア車両のドライバーへの報酬はどのように支払われるのか。メーターを装着して、その数字をタクシー会社に報告する形になるのか。そして、キャッシュレス決済対応はどうするのか……というように続々と問題が出てくるはず。それらの解決手段を具体的な設計案としてまとめ上げられるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
【参考】
第二百十二回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説-首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/1023shoshinhyomei.html
日本版ライドシェア」の速やかな実現を求める -タクシー事業者による一般ドライバーの限定活用-経済同友会
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/toushi/20200413/200413toushi02.pdf
第1回 神奈川版ライドシェア検討会議 次第-神奈川県
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/104291/kaigisiryou.pdf
第1回 神奈川版ライドシェア検討会議 議事録-神奈川県
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/104291/kaigiroku.pdf
取材・文/澤田真一