RLカットの圧勝かと思いきや…
RLカットのRLとはロバート(ボブ)・ラディックのイニシャルで、この時代というより今でもそうだがカッティング・エンジニアの名匠だ。低音を強調するカッティングをしたため、当時のカートリッジでは針飛び起こり返品が続出、アトランティックは回収して別のエンジニアを起用して『Ⅱ』を作り直したという逸話をもち、ホット・ミックスとも呼ばれる。マト1ワールドでは、爆音盤として有名だ。
よって市場に残る絶対数は少なく、他のマト1『Ⅱ』よりも高い。とはいえ僕が購入した約10年前は8500円ほど、SP工場が5000円くらいだからバカ高いわけではなかった。ところが先日有名中古レコード店を覗いたところ2枚在庫があり、1枚が約15万円、より状態がいいもう1枚が約20万円なり。ロマネ・コンティ級の暴騰で、爆音盤にふさわしい?
比較試聴の結果は、意外にも僅差でのRLカット勝利だった。自宅での予習は文句なしにRLカットが良かったのでオーディオによる違いかとも思うが、僕のRLカット「胸いっぱいの愛を」は曲頭や静音部にチリがかなりあり耳障り、そのせいかもしれない。
2回戦のリマスターCD vs UKマト2WRECKは、これまた意外にもリマスターCDの圧勝となる。3000円ほどで買えるCDが圧勝とは、これまでマト1に注ぎ込んできた巨額の(?)お金は何だったのか、少し悲しくなってくる。だが決勝の相手は天下のRLカット、CDに負けるわけがない。いやSP工場に辛勝だから、心許ないか?
決勝も衝撃の結果を迎える。リマスターCDの完勝なのだ。だが、僕は納得がいかない。確かにCDの低音は豊かで、RLカットの比ではない。比べれば、RLカットのベースは影武者のようだ(低音を強調したRLカットより低音が出るのだから、さすがはジミー・ペイジか)。だがドラムに傾聴すれば、そのアタックの強さ、華やかさ、抜けの良さは断然RLカットが優れている。「胸いっぱいの愛を」の聴きどころは、ベースよりドラムの音でしょうと言い張りたくなる。
そこでB面1曲目の「ハートブレイカー」の聴き比べを提案する。結果はRLカットの優勢勝ち。やはり「胸いっぱいの愛を」では、チリがかなりのマイナス要因になったのではないか。だがそれにしても、チリは気にならない「ハートブレイカー」でRLカット圧勝とならなかったのは、僕としては腑に落ちない。
『Ⅰ』でもそうだったが、最後に優勝ディスクのA面全曲をかける。20万円級のレコードが目の前にありながら3000円級のCDを聴くことになった。聴き終わると参加者からこんな声が出る。「全部聴くと、何かお腹いっぱい感がある」、「低音が凄いと思ったが、トゥー・マッチな気がしてきた」。僕もCDは低音を強調しすぎた不自然な音だと思った。というわけで、やはりRLカットが上だと自己満足に浸る。
試聴を通して、スメルバーのシステムは音がいいと実感した。JBL4312、いつから鳴らしているかは知らないが、毎晩たっぷりとロックをかけ続けてきたエイジング効果だろうか。僕の20代半ばからのロックとオーディオの師匠、音楽&オーディオライターの岩田由記夫さんに「スピーカーを中古で買う場合は、何を聴いてきたか確認すべきだ。たとえJBLでも、クラッシックをかけてきたならクラシック向きの音になっている」とアドバイスされたことがある。比較試聴イベント後、参加者の1人T氏から「音も、想像以上でした。一昨日、昨日と、インターナショナルオーディオショウに行き、2500万円オーディオでツェッペリンを聴きましたが、確かにそちらの方は、轟音、かつ上から下まで全ての音域で情報を送り出している感じがしましたが、今日のオーディオは、カートリッジが44のためか低域や高域をむやみに欲張ることなく、ロックに最も大事な中域重視が幸いしたようで、いかにもロックという音が聴けて嬉しかったです」というLINEをいただいた。
そして、今、思いついた。僕は2か月に1回、東京・大岡山のライブハウス「グッドストック東京」で、前述の岩田さんとレコードを聴く会を開いている。次回の12月16日はプレーヤーはいつものLINNの500万円級システムだが、CDプレーヤーはエソテリックの800万円級システムを使う。その時の聴き比べ曲の一つに、RLカットvs リマスターCDを入れよう。というのも岩田さんは、ドイツ製100万円級レコード洗浄マシンを持っている。その効果は、ピンク・フロイド『狂気』UKマト2(事実上のマト1)を洗ってもらって実感している。RLカットを洗ってもらってCDと聴き比べるのだ。今度こそアナログレコード、CDに圧勝あれ。
文/斎藤好一