【AJの読み】まさかの事態に備えるために親子で考えたい「家族信託」
教育系のアプリを手掛けていた三橋氏が、なぜ家族信託の事業に携わることになったのか、その理由がユニークだった。
マナボを売却後、世界を放浪していた三橋氏が次の事業として興味を持ったのが、ヒトの脳と外部の機器をつなげる「ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)」。中国のBCI関連の企業で試行錯誤したそうだが、2018年当時は技術的に10年ほど早い段階だったため、時期を待つことになった。
「遮蔽物となってしまう頭蓋骨に外科的な手術を施さないと難しいことから、10年後に黎明期が来た時のための準備として、どのような人なら手術を許諾してもらえるだろうか?と考え、耳が遠くなったり、活舌が悪くなっても孫とコミュニケーションを取るために、ペースメーカー入れるような感覚で、頭蓋骨の手術をやってみようと思うシニアの方がいるではないかと仮説を立てました。
BCIの黎明期が来る10年後のために、あらかじめシニアの方から信頼されている状況や事業を作ろうと、高齢化社会先進国で地の利がある日本に戻ってきたのが2019年の夏。
シニアの課題と言っても数多くあり、今思い出すと笑えますが、オレオレ詐欺撲滅システムとか脳年齢推定エンジンとか、介護士版Uberとか10事業ほど考えました。
最終的に課題が圧倒的に多かった認知症をターゲットにしましたが、医学的なアプローチは難しいため、その頃ちょうど知った金融認知症対策から、家族信託の万能性を初めて認識し、そこに可能性を見出しました。
しがらみや効率性の悪さもあって普及していないことから、しがらみもなくテックがある自分なら全く違うやり方できるのではないかと、テックで構造を変え家族信託をあたりまえにしていこうという事業で着地したのが2020年の5月でした」(三橋氏)
今回のインタビューでも出てきた成年後見制度だが、母が脳卒中で倒れ植物状態になったことから、筆者自身が成年後見人となった経験がある。
以前知人から、弁護士に成年後見人を依頼した際「年に1回通帳チェックをする程度なのに毎月高額な費用を取られる」「必要なお金がある場合でも融通が利かず引き出せない」など、「とんでもない話」をたくさん聞かされていたため、手続きは多少面倒でも絶対に弁護士には依頼しないと決意し、自ら成年後見人になった。
母は元気で一人暮らしをしており、認知症でもなかったため、まさか突然、意思疎通ができない状態が起こるとは想像もしていなかった。高額な入院費がかかるのにお金が引きだせないと愕然となり、必死な思いから成年後見人となったが、ファミトラのように、富裕層でなくてもできる家族信託が当時からあったならば、元気なうちに相談できたかもしれない。
「まさか」の事態は突然やってくる。親が元気なうちはお金のことはタブー視しがちだが、きちんと話し合うことがまさかの事態が起きたときの備えになる。親のため、子のためにも家族信託という選択肢を知っておくことが必要だろう。
文/阿部純子