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「ドル建て日経平均」は都市伝説?市場に溢れるフェイクニュースとの付き合い方

2023.11.12

円安と株安が同時に進む局面でよく目にするのが、「米ドル建て日経平均株価(以下、ドル建て日経平均)の下落で海外投資家が日本株を見切り売り」という解説だ。

日本の株式市場の売買はその約6割を海外投資家が占めるため、「なるほど」と納得してしまいそうになるが、こうした解説は的を射たものなのだろうか。

そこで、主要経済紙でも度々報じられる「ドル建て日経平均」の実像を検証するべく、三井住友DSアセットマネジメントはこのほど、同社チーフグローバルストラテジストの白木久史氏による「『ドル建て日経平均』という都市伝説 市場に溢れるフェイクニュースとの付き合い方」と題したマーケットレポートを公開した。詳細は以下の通り。

1.盛られる「ドル建て日経平均」の影響力

日本の株式市場における海外投資家の動向は、東京証券取引所(東証)が発表している「海外投資家地域別株券売買状況」で確認することができる。9月の同資料を見ると、米国投資家の売買金額は月間約7.3兆円、海外投資家の売買に占めるシェアは約6.8%に過ぎない(図表1)。

ちなみに、日本における最大の海外投資家は欧州勢で、9月の売買代金は約82.1兆円、同シェアは約76.7%に達する。こうしてみると、「ドル建て日経平均」よりも、「ユーロ建て日経平均」の方がよほど重要かもしれない。

なお、9月の東証3市場(プライム、スタンダード、グロース)における海外投資家の売買シェアは約59.5%だ。このため、自国通貨である米ドルを投じて日本株を買っている米国の投資家の日本株売買シェアは、大きく見積もっても市場全体の約4%(6.8%×59.5%)に過ぎない計算になる。

大手の機関投資家が市場で株式を売買する場合、自身の取引で株価を大きく動かしてしまうことを避けるため、概ね1日の売買代金の2割をめどに取引金額をコントロールするのが一般的だ。こうした市場参加者の肌感覚からすると、売買シェアで4%を占めるに過ぎない投資家が市場に大きな影響を与えるとする解説は、かなり「盛った話」に感じられる。

2.「ドル建て日経平均」が気にならない残念な理由

日本の株式市場には、様々なタイプの海外投資家が参加している。オイルマネーを運用する中近東の政府系ファンド、欧州の大規模年金基金、そして外貨準備や国家資金を運用するアジアの政府機関など、多様な投資家がその投資目的に応じた手法で日本株を買っている。

そんな多様性に富んだ海外投資家に共通するのは、「運用の良し悪し」を測る基準(ベンチマーク)について、MSCI指数や東証株価指数(TOPIX)のような、時価総額の加重平均で計算する指数を使っていることだ。

一方、日経平均は株価の高いいわゆる値嵩(ねがさ)株の影響を大きく受けるため、株価指数としては構造的な欠陥があるとされており、海外のプロがベンチマークとして採用することはほぼないようだ。残念ながら、円建てであれ米ドル建てであれ、「日経平均」が海外の主要な機関投資家の動向に影響する可能性は極めて限定的といえそうだ。

こうした話をすると、「先物を活発に取引する海外投機筋がドル建て日経平均に注目しているんだ」という反論をいただく。しかし、こうした解説も、基本的なデータを確認するとその怪しさに気づかされる。

株価指数先物の取引規模を見ると、日経平均(日経225)先物の期近中心限月である2023年12月限の建玉枚数は足元で226,469枚、金額で約7.2兆円となっている。一方、TOPIX先物の建玉枚数は547,099枚、金額で約12.7兆円に達し、日経225先物を大きく上回っている(11月2日現在)。

機動性が命の投機筋にとって、取引の流動性に直結する市場規模の大きさは投資対象を選ぶ上で大切な要素の一つとなる。このため、伝統的な機関投資家にとどまらず、先物を駆使するヘッジファンドなどにとっても、日経平均よりTOPIXの方がより身近で大切な投資対象と言えそうだ。

■一粒で2度おいしい、「日本株買い・円売り」ポジション

さらに重要なのは、ヘッジファンドに代表される海外投機筋が日本株を買う場合、為替リスクを気にする必要がない、という事実だ。短期での値幅取りを狙う投機筋は、日本株の買いに「円売りドル買い」の為替予約を組み合わせることが少なくない。

なぜなら、低金利通貨の円を対ドルで売却する為替予約を行うと、日米金利差に相当する収益をほぼ市場リスクなしで受け取ることができるからだ。現在米ドルの銀行間取引金利(LIBOR)は3カ月で約5.64%、日本円(TIBOR)は約0.07%だから(10月31日現在)、為替予約をすれば年間5%を超える投資収益を株式投資のリターンに上乗せすることができる。このため、為替をフルヘッジした日本株買いは、投機筋にとって「一粒で2度おいしい取引」といえそうだ。

こうした「日本株買い」と「円売りドル買い」を組み合わせた取引は、ロンドンの2階建てバスになぞらえて「ダブルデッカー」とも呼ばれる。2012年秋に始まった「アベノミクス相場」や、今年5、6月の日本株の大幅高の局面でも、こうしたダブルデッカーの活発な取引が報じられている。

冷静に考えれば、機動的で柔軟な投資行動を旨とする投機筋にとって、為替ヘッジなしに日本株(含む先物)を売買する理由を見つける方が難しいように感じられる。特に、円安が日本の企業業績にプラスとなることで株高要因となることが多いことを考えると、円安をともなう株高局面では積極的に為替ヘッジをする方が合理的とさえ言えそうだ。そして、為替リスクをヘッジしてしいる海外投資家にとって、円安で価値が目減りする「ドル建て日経平均」など眼中にないのは説明するまでもないだろう。

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