目次
自由な働き方として注目を集める『フレックスタイム制』は、魅力的な労働形態です。制度の特徴や、似た労働形態との違いを解説します。働く上でのメリット・デメリットや、一般的な働き方についても確認しましょう。残業代の基準や、向いている職種も紹介します。
フレックスタイム制とは
多様な働き方が広まり、『フレックスタイム制』を導入する企業も増えています。フレックスタイム制とは、具体的にどのような働き方を指すのでしょうか?特徴や定義を解説します。
■労働時間を自ら決められる制度
フレックスタイム制は、企業が提示した時間の範囲内で、働く時間を労働者が柔軟に設定できる制度です。ワークライフバランスの改善や働きやすさの向上につながる働き方として、注目を集めています。
フレックスタイム制では、必ず働かなければならない『コアタイム』と、柔軟に設定できる『フレックスタイム』が設定されるのが一般的です。時間の長さや時間帯は企業ごとに定められており、24時間いつでも自由に働けるわけではありません。
時差出勤制度や裁量労働制とはどう違う?
フレックスタイム制に似た働き方として、『時差出勤制度』や『裁量労働制』が挙げられます。
時差出勤制度は、主に交通機関の混雑を避けるため、指定された範囲内で出勤時間を変更できる制度です。
コアタイムを過ぎれば自由に退勤できるフレックスタイム制とは異なり、労働時間は固定されます。個人で業務開始時間や昼休みの取得時間の変更・設定が可能な『個人単位の時差出勤制度』も増えており、柔軟な働き方が可能です。
裁量労働制は、業務の遂行上、働く時間を固定するのが困難な場合に限り、労働者の同意や届け出を経て導入が可能な制度です。
『企画業務型裁量労働制』『専門業務型裁量労働制』の2種類があり、対象業務は厚生労働省令・厚生労働大臣により定められています。2024年4月以降は、導入・継続に当たって新たな手続きが必要です。
裁量労働制は、労使協定で労働時間を定め、その時間分を働いたと見なす『みなし時間制』の労働形態です。法定労働時間外の見なし時間を設定する場合は、割増賃金の支給や36協定(労使協定)を結ぶ必要があります。
対してフレックスタイム制は、企業が定める清算期間内で労働時間の過不足が生じた場合、賃金の上乗せ・カットや翌月への時間繰り越しなどにより調整できるのが特徴です。
■フレックスタイム制の目的
フレックスタイム制では、始業と終業だけでなく、1日の労働時間の設定も一定の範囲内で自由です。労働者が仕事とプライベートを両立し、働きやすい環境を維持する目的で導入されます。
仕事が進めやすい日には長時間働き、効率が上がらない日には労働時間を減らすといった自由度の高い設定が可能になり、効率的に仕事が進められるのも特徴です。職場全体の生産性アップにも貢献します。
労働者の多様なニーズに応える制度は魅力があるため、人材確保や従業員の退職予防にも貢献するでしょう。
■2019年の法改正における変更点
2019年4月に、フレックスタイム制に関する法改正が行われました。内容は、清算期間の上限延長です。
『清算期間』は、フレックスタイムの活用による労働時間の過不足を判定する基準として設定されます。改正前は1カ月が上限となっていましたが、法改正後は3カ月です。導入には労使協定の締結が必要であり、1カ月を超える期間を設定するには労働基準監督署⻑への届け出が求められます。
清算期間を長く設定している企業では、2月と3月は労働時間を抑え、4月に多めに働くといった柔軟な働き方も可能でしょう。
なお、清算期間が1カ月を超える場合でも、1カ月ごとの週平均労働時間が50時間を超えるケースでは、時間外労働と判断されます。また清算期間全体の週平均労働時間も40時間以内に抑える必要があります。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
フレックスタイム制のメリット、デメリット
フレックスタイム制を導入している企業で働くに当たり、メリットとデメリットの両方があります。主な特徴と、働く上で知っておきたいメリット・デメリットを確認しましょう。
■ワークライフバランスが取りやすい
フレックスタイム制を導入すると、仕事とプライベートのバランスが取りやすくなります。例えば、家族や友人との時間をつくるため、早めに出勤して早く帰宅することも可能です。
病院や役所などに用事があるときには、勤務時間を遅らせるといった働き方もできるでしょう。育児・家事との相性もよく、事情がある場合でもフレックスタイムを活用して柔軟に勤務時間を調整できます。
1日8時間、週5日といった働き方にとらわれず、仕事とプライベートを充実させたい人にはメリットが大きいでしょう。
■社員間のコミュニケーションが不足しがち
個人が出勤・退勤時間や労働時間を柔軟に設定できる分、オフィスで全員が顔を合わせる機会は少なくなります。
コアタイムを設定していれば全員がそろう時間がありますが、一般的な労働形態を採用している企業に比べると、社員間のコミュニケーションは取りにくくなるでしょう。
それぞれが自由に出退勤の時間を決めるため、労働時間の管理が難しくなるのもデメリットです。清算期間内で法定労働時間内に調整できるよう、本人や管理者が都度確認しなければなりません。
フレックスタイム制の働き方
フレックスタイム制の一般的な働き方や、残業に対する扱いはどうなっているのでしょうか?働き方の特徴と、残業代の仕組みを解説します。
■フレキシブルタイムとコアタイム
フレックスタイム制は基本的に、『フレキシブルタイム』と『コアタイム』で構成されています。
フレキシブルタイムは、出退勤が自由とされている時間帯です。コアタイムは、必ず出社しなければならない時間帯または日程を指します。例えば、8~10時と17~19時がフレキシブルタイム、10~15時はコアタイムといった設定です。
なお、フレキシブルタイムとコアタイムの設定は任意とされています。コアタイムを設定しない『スーパーフレックスタイム制度』を導入している企業もあり、フレキシブルタイムとして設定されている時間内であれば、いつでも出退勤・中抜けが可能です。
設定が任意とはいえ、深夜勤務や休日管理の観点から、始業と終業の時刻だけは設定されているケースが多いでしょう。
■残業時間や残業代
フレックスタイム制は、始業や終業を労働者の意思で判断できる制度ですが、残業時間や残業代も存在します。
企業が設定している『総労働時間』は『所定労働時間』となるため、これを超えた場合、残業時間としてカウントされ、残業代の支払い対象となります。フレックスタイム制での残業時間は総労働時間と実労働時間の差で判断されるため、1週間の労働時間が総労働時間を超えたからといって、すぐに残業代が発生するわけではありません。
条件にもよりますが清算期間が1カ月の場合、1カ月の週平均労働時間が総労働時間を超えると残業代が発生します。清算期間が1カ月を超える場合、総労働時間の条件に加えて、1カ月の週平均労働時間が50時間を超えると法定外残業となり、残業代の支払い対象です。
また、残業には法定内残業と法定外残業が存在します。企業が設定している週の総労働時間が40時間を下回っている場合、こちらも条件によって40時間までは法定内残業として一般賃金の支払い対象です。40時間を超える分は法定外残業として、割増賃金が支払われます。
なお、法定外月60時間を超えると、大企業・中小企業共に割増賃金率が上がります。
参考:月60時間を超える時間外労働の 割増賃金率が引き上げられます
フレックスタイム制で働く際のポイント
フレックスタイム制で働きたいと考えている場合、何を確認しておくべきなのでしょうか?導入されるケースが多い職種や、働く前にチェックしておきたい内容を紹介します。
■フレックスタイム制の実態を確認
フレックスタイム制は、企業によって時間帯の設定やルールがまちまちなのが特徴です。転職や労働形態の変更でフレックスタイム制を検討している場合は、企業ごとの運用方法を確認しましょう。
コアタイムの有無やフレキシブルタイムの時間帯を確認し、自分の働きたい条件と合っているか調査するのがポイントです。全員がフレックスタイム制を利用できるのか、繁忙期や繁忙時間帯によって柔軟な働き方が難しくなっていないかという点も把握しておくとよいでしょう。
制度をうまく活用している企業に勤務できれば、仕事の充実やプライベート時間の有効活用もできるようになります。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
■フレックスタイム制が向いている職種を紹介
フレックスタイム制には、向いている職種と向いていない職種があります。向いているのは社内で仕事が完結し、複数人でのコミュニケーションがそれほど求められない職種です。
プログラマーやエンジニアなど、個々人がそれぞれの業務をコツコツと進めるような職種はフレックスタイム制に向いています。IT系の仕事はリモートや文章でのやりとりがしやすく、全般的にフレックスタイム制を取り入れやすいといえるでしょう。
記者やテレビ関係者のようなマスコミ関係の仕事も、比較的フレックスタイム制を取り入れやすいといえます。取材対象や芸能人の都合に合わせる必要はありますが、必ずしも出社が求められない点が魅力です。
コアタイムに取引先や顧客対応を行うコンサルティング業務も、フレックスタイム制の導入が多い職種といえるでしょう。
構成/編集部