こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
女性職員
「え…なんで男性の医師(Xさん)が更衣室に入ってくるの」
職員たちは会社にクレームを入れました。
会社
「Xさん!ノックして入るようにしてください」
職員42名
「Xさんの行為はセクハラです。あの医師を職場に復帰させないでください」
会社
「OK。懲戒解雇だ!」
〜 舞台は法廷へ 〜
裁判所
「懲戒解雇ダメ〜。のぞき目的で入ったわけじゃないじゃん」
以下、分かりやすくお届けします(社会福祉法人永芳会事件:大阪地裁 R5.3.23)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 法人
・介護老人保健施設を運営する社会福祉法人
▼ Xさん
・医師
どんな事件か
▼ 経営権争いに負ける
まずは軽く背景事情を。
この法人を設立したのはXさんの父(理事長)だったのですが、いざこざがあって理事長を解任されます。子のXさんも法人から退職勧奨を数度うけたのですが拒否。労働審判にまで発展した末、Xさんは法人に残ることができました。
詳細は割愛しますが、残り続けてからもXさんと法人は色々と衝突します。法人はXさんを追い出したかったんでしょうね〜。
▼ どこで診察を?
Xさんは脱衣所の中で利用者の診察をしたことがありました。それについて職員から苦情が出たことはありませんでした。
▼ 脱衣所の構造
この脱衣所は、施設の利用者だけでなく職員も利用していました。脱衣所の出入り口から向かって左奥が脱衣スペースとなっていました。そして、出入り口付近には、奥行き2mの踏み込み部分があり、その奥の脱衣所の床部分との境目には、出入り口の正面から向かって左方向に壁近くまで目隠し用のついたてが設置されており、出入り口付近の踏み込み部分からは脱衣スペースが見えないようになっていました。
▼ 事件発生
Xさんは、ある利用者を診察しようとしていましたがフロアには見つかりませんでした。そこでXさんは「脱衣所にいる」と判断。
脱衣所のドアをノックせずに入りました。すると、その利用者がいて、女性職員が利用者の髪を乾かしていました。その職員は特に驚いていませんでした。
しかし、別の女性職員は「先生、どうしたんですか」と驚いて声を出しました。女性職員が着替えていたからです。別の3名の女性職員も「え、先生いるの」などと声を挙げました。
利用者の髪はほぼ乾いていたので、Xさんは利用者をつれて脱衣所から出ました。
事務長はXさんに対して「ノックせずに更衣室にはいってはいけない」と注意しました。
▼ 面談
理事長や事務長は、脱衣所に入った件についてXさんと面談しました。そして、「今後、被害届を出すかも視野に入れつつ処分を検討している」旨を通告しました。理事長たちは「弁明があれば聞く」と述べたところ、Xさんは「うーん、まあ、うーん、ちょっと細かいところは違うような気がしますけどね」「あー、うーん。自分の細かい発言は、いちいち覚えていないからアレだけれども」などと回答しました。
▼嘆願書
Xさんピンチです。職員42名が嘆願書を法人に提出しました。嘆願書にはおおむね以下の内容が記載されていました。
「Xさんの脱衣所侵入の件はセクハラです。反省の弁のないXさんは決して許されない。我々職員はXさんの復帰を望みません」
▼ 懲戒解雇
Xさんは懲戒解雇されます。
▼ 労働審判
Xさんは労働審判を申し立てて勝利しました。しかし、法人が異議を申し立て、舞台は訴訟へ。