一兆円規模にもなるワークフロー市場
――ワークフローの市場規模について教えてください。
金海寛さん 私どもが手掛けるサービスはワークフローに関連するものですが、米国の調査では、このワークフロー市場は2030年までに10 倍の規模になると予想されています。これはCAGR(年平均成長率)30%以上の伸び率で、サイズは1兆円を超える市場に急成長すると見られています。
日本でもワークフロー市場は広がりを見せています。昨年度のワークフロー市場は、リモートワークの普及とDX推進に伴うシステム拡張により、前年度比13.4%増、2027年度には200億円規模に達する見込みです。SaaSの成長率はCAGRが20%を超えています。
このようにワークフローが注目され始めた背景としては、コロナ禍によりリモートワークが進み、AIの導入とともに、人が生産性について、見直すようになった点が大きかった。
――サンカでは具体的にどんなサービスを提供していますか?
金海寛さん いろいろなワークフローのサービスがありますが、私どもの顧客のA社の場合は、社内コンテンツをより効率的に管理するためにSankaを導入されました。これはブログの記事をSNSで自動配信するツールです。
SNSで広げたい内容を人間が一つずつ紹介するのは大変な作業です。そこで、記事が投稿された段階で、サンカのシステムがAIにより内容を自動でサマリーします。Webメディアでこんな特集がアップされました、という文字が出るので、その文字を確認してから、X(旧Twitter)のフォーマットで書き直して、アップされる仕組みです。
自動で行うAI投稿は怖い一面があり、業界用語だとハルシネーションを起こすことがあります。間違えたことを正しいように表現してしまうのです。そこで、サマリーのまとめた記事を誤情報ではないか、必ず担当の人がレビューするというプロセスを踏まえて、正しければOKを出す仕組みとしました。
ワークフローを見直し、人とAIが共存し、既存の非効率なプロセスをリプレイスできる仕組みです。サンカを創業した時、私は「人類の生産性を高める」という目標を立てました。ただ単に人が作業するのではなく、人間しかできない、人がやって価値があることを仕事にできるようにしたいのです。
A社の事例でも、私どものツールを使えば、情報発信の元になるブログの記事の内容を質の高いものにできるでしょう。これまでより多くの人にインタビューしたり、内容を深めるなど、人間しかできない仕事をして、そのサポートをAIが行うようになります。まさに、生産性の向上に貢献できるのです。
AIがしてくれることは多いですが、そもそものワークフローを最初に立ち上げるのは、人間がやることです。AIはあくまでも人の補助で、仕事のベースになるものは人間がやるべきことだと私は思います。
――導入から運用までのスケジュールについてお聞かせください。
金海寛さん 規模にもよりますが、企画から立ち上げて導入まで約2週間ぐらいです。カスタムで開発していますが、どの企業にもワークフローに望む点はそれぞれなので、それを上手に取り入れてシステム化することが重要で、難しいところです。
例えばある営業主体の顧客からは、営業マンのスキルがそれぞれ異なり、共有できないので、どうしたら良いかという相談を受けました。何がきっかけで商談になるか、顧客になるかという、俗人的なスキルを共有したい、という希望を頂いたので、各営業シーンを自動で録音してチームに共有できるプロセスを作っています。
スケジュールと今後の事業展開について
――他社に比べて有利な点は何でしょうか?
金海寛さん 弊社ではSankaという一つの自動化プラットフォームを提供して、その上で様々な効率化システムを構築するようにしています。
例えば先程のA社の事例のように、SNSに連携したコンテンツですが、作成からレビュー、投稿まで出来る場合はそれぞれのツールやアプリに連携する必要があります。その連携の数、すなわちどんなプロセスも自動化できるプラットフォームが揃っているのです。
ユーザーの対象も、規模に関わらず、個人事業主から、大企業まで、幅広く使えるのも、強みです。
実際に活用している顧客からは、使いやすいと言われることも多いです。
我々の理想像を例えるならばiPhoneの様に、老若男女、誰でもが使いやすいシステムです。このようなデジタル時代で、どの企業でも自動化・効率化のニーズは高いと考えています。そうした一つ一つのニーズにキチンと応えられることが強みかと思います。
サンカ社の可能性について
――今後の事業展開についてはいかがでしょうか?
金海寛さん 業務の効率化は、今後も求められる課題の一つでしょう。
米・アマゾン・ドット・コムの創業者、ジェフ・ベゾス氏は、今、注目を集めるホットな市場に乗るのではなく、これから10年先にも必要であり続ける市場やサービスを展開した方がいい、という言葉を残しています。今、ホットな分野はAIやビックデータですが、そうではない10年後に変わらず、必要なものに時間を割きたいと考えています。その一つが、業務効率化の部分なのです。
今後の売り上げ目標などは設定していますが、あまりそれにこだわらず、焦って事業を大きくせずに、着実に一歩一歩プロダクトをブラッシュアップしていくのが必要だと思っています。
労働生産性の分野では、日本は世界の中でもかなり低く、OECD38位中の27位で、1人当たりの生産性はものすごく低いのです。上司の帰宅を待って帰るような、悪しき文化を変えながら日本という国のポテンシャルを上げていけば、世界市場における競争力はまだまだ高まるでしょう。
ロボットができることはロボットに任せ、人間は真にクリエイティブな仕事を行うことで、仕事のやり甲斐にもつながるはず。ワークフローを見直して効率化を図ることが、人々の幸福感につながると信じています。
インタビュー
金海寛(キム・ヘガン)さん
2010年、英国Warwick大学に在学中、ウェブメディア「Law of Success 2.0」を創刊。ノーベル賞受賞者やFortune500企業CEO含む著名人へのインタビューを実施、世界的注目を集める。
2013年に株式会社バベル(現サンカ)を創業。当時の最新技術であったビッグデータ分析を中心としたコンサルティングを提供。Coinbase, Square, Revolutなど国際的なIT企業の日本およびアジアで戦略・マーケティングにおけるマネジメント職を経て、2023年よりSankaへの取り組みを開始、同年6月にサービスを提供開始。
AI、DX・自動化、NFT・メタバース、Fintechなど幅広い領域でソリューションを提供する。経済、テクノロジーメディアに寄稿記事、招待スピーカーとして登壇経験多数。
文/柿川鮎子