歴代の「ロードスター」とコンセプトカー「アイコニックSP」のみと思い切ったマツダ
マツダの「アイコニックSP」も今回のショーの注目の1台だ。ブース正面には赤い初代ロードスターが置かれ、その後ろには大きなイラストが掲げられ、横には「だれもが、しあわせになる。」という、謎のポエムのようなものから始まり、何と、今回のマツダブースの展示は、歴代の「ロードスター」とこのコンセプトカーのみと思い切った出展内容となっている。
「アイコニックSP」は、ロータリーエンジン2基を発電用のレンジエクステンダーにしたEVスポーツカーのコンセプトだ。日産の5台とは対照的に、ボディーのすべてが曲線と曲面でまとめられている。
ほんの少しだけ開いてLEDを照射するリトラクタブルヘッドライトは、FD型「RX-7」へのオマージュだろう。全体的に柔らかく優しい印象を見る者に与えることに成功しているが、新しさには乏しい。斜め上方に跳ね上げられるドアはアストンマーティンだし、丸型のテールライトユニットは、かつてのアルファロメオやフェラーリなどのイタリアンンデザインなどを思い起こさせる。丸みを帯びた全体的なフォルムとプロポーションも1960年後半から70年代に掛けてのイタリアのスポーツカーを彷彿とさせる。
FD型「RX-7」も決して大きなサイズのクルマではなかったが「アイコニックSP」の全長はそれよりも100mmも短いそうだ。仕方のないことではあるが、多くの機能や装備などを盛り込みサイズが膨れ上がってしまっているクルマばかりの現代で小さなクルマを志向するすることへのチャレンジは大いに評価したい。
表現は懐古趣味的だが、鑑賞に耐え得る造形を追い求めたマツダの姿勢ならではの成果だろう。刺々しく刹那的な造形のコンセプトカーが多かった今回のショーの中で清々しさを放っていた。
レクサスのプレスブリーフィングでサイモン・ハンフリーズCBOは、EVの床が高くなってしまう宿命を解決するべく、コンセプトモデルの「LF-ZL」と「LF-ZC」の2台を「より小さく、より広く、もっとエモーショナルなデザイン、もっと広いスペースとフレキシビリティ、もっとドライバーに寄り添うクルマ」であると紹介した。
「LF-ZL」の前後のドアが開いた状態では、リアドアはスライド式のように見えた。コンセプトカーなので、リアドアのスライド機構がどんなものなのか窺い知ることはできなかったが、ボディーの小ささと車内の広さという相反する課題に触れていることは興味深かった。
「アルファード」や先日、発表されたレクサス「LM」のように、ミニバンがショーファーユースに使われる場合の代替え提案になるかもしれないことを「LF-ZC」は示している。
ミニバンは一見すると車内が広いように感じられるが、乗用車よりも高い着座位置によじ登って座らなければならず、揺れも大きいという宿命的な短所を内包している。ミニバンのショーファーユースに代わるものを目指しているのだったら引き続き注目していきたい。
スタートアップの出展には、すぐにでも生産できそうなクルマがあった。AIM(エイム)というメーカーは、春の「オートモビルカウンシル」に走行可能なEVスポーツカーのプロトタイプを出展して注目を集めていたが、今度は超小型EV「EV MICRO 01」を出展した。
屋根が開く超小型EVで、近距離の移動ならばこれで十分かもしれない。デザインはキュートで、中身のメカニズムさえ完成しているのならば、このまま発売できそうだ。
他にも多くの展示がなされていた。ほぼそのままの姿で発売されるであろうもの、既存のクルマのアップデイト版、純粋にコンセプトを問うもの、コンセプトやデザインなどに深みが感じられない予定調和的なもの、ただただ派手で、わかりやすい“近未来”を演じているものなど様々なことはこれまでのモーターショーと変わらない。それらの中にあって、ここに挙げたものはリアリティーの濃いものだ。製品化までの遠近ではなく、来場者に問い掛けてくるものの濃淡が結局は見応えに通じていた。
開催期間は11月5日(日)まで。気になる方はぜひ東京ビッグサイトまで足を運んでみてほしい。
■関連情報
https://www.japan-mobility-show.com/
取材・文/金子浩久(モータージャーナリスト)