深まるブライダルジュエリーの不調
老舗のブライダルジュエリーショップは3つの危機が重なりました。1つは需要が緩やかに縮小していること。もう1つは消費者の価値観が多様化していたこと。そしてコロナ禍で結婚式を控える動きが広がったことです。
2つ目の要因は、中長期的にショップを苦しめるものでした。ハイブランドの認知が広がったことや、安価でも手作りで思い出に残るものが作れるなど、消費者は自分たちのスタイルに沿ったものを求めるようになりました。従来のように店舗展開をしているだけでは十分な集客ができなくなります。
ジュエリーショップに在籍するスタッフの販売力は強力で、来店すれば高い確率で購入に至ります。しかし、ブライダルジュエリーに関する消費者向けの情報が溢れているため、広告を出しても効果が表れにくい時代となりました。
そこにコロナ禍が重なり、結婚式を控える人が急増しました。ただし、これは延期をするだけであり、反動増には期待できます。
ところが4℃のブライダルジュエリーは回復しませんでした。
2022年2月期の既存店売上は81.6%。下のグラフを見ると、2017年2月期からじりじりと売上減に悩まされており、2021年2月期でいっきに落ち込んでいます。2022年2月期はそれを更に下回ったのです。
※決算説明資料より
4℃の2022年2月末のブライダル専門店数は40。これはコロナ禍を迎える前の2022年2月末と全く同じ数です。需要回復に期待感を抱いていたものの、十分な効果が得られなかったものと考えられます。
女性客に支持されるブランドへと昇華できるか?
ここからのブライダル専門店の撤退スピードには目を見張るものがありました。2023年2月期は18店舗を閉鎖。2024年2月期上半期は更に5店舗を退店しています。出店も含めると、店舗数は半分の20まで減りました。
大量に店舗を閉鎖したものの、2023年2月期のジュエリー事業の売上高は前期比0.5%の減収、2024年2月期上半期は5.2%の増収でした。収益のコントロールが効いており、大幅な増益へと繋がっています。
4℃のブライダルジュエリーからの転換は、ターニングポイントとなるでしょう。ブライダルジュエリーは一定の需要が狙えるメリットはありますが、デザイン性やブランド構築への投資に対して後ろ向きになりがちなため、本来の顧客である女性への支持を得にくくなるデメリットがあります。
2024年2月期上半期は女性客売上高が3.0%上昇、EC売上も2割増加しています。
4℃は2023年9月に表参道に「匿名宝飾店」をオープンして話題になりました。ブランドを隠した店舗をオープンしたのです。
※決算説明資料より
このような取り組みを実施しているのも、4℃が商品本来の価値に立ち返り、品質やデザインが顧客に受け入れられるのか、という本来あるべき顧客主義に立ち返ったと見ることができます。
4℃がファッションジュエリーの商品価値向上やブランド構築を強化すれば、業績拡大だけでなく、消費者の見方も大きく変わる可能性があります。
同社の動きで見逃せないのが、アパレル事業。2024年2月期上半期の売上高は前年同期間比10.1%増の10億2,900万円でした。「パレット」というカジュアル衣料を扱うショップの出店を強化しており、トップラインの伸びをけん引しています。
主力のジュエリー事業は構造改革で利益の出る体制へと変革し、アパレル事業は出店強化で増収に貢献しています。
その両輪が上手く噛み合うようになりました。
取材・文/不破聡