Pixel 8シリーズを買うか、「Pixel 8a」(仮称)を待つべきか
房野氏:ちなみに、Pixelのaシリーズのユーザーは、iPhone SEシリーズの代わりに購入しているのでしょうか。
石野氏:そこまで明確に定まっているわけではなくて、Googleとしても、〝売るためのPixel〟という位置づけだと思います。
法林氏:今回のPixel 8シリーズはフラッグシップモデル。その約半年後に、〝a〟という名前を付けて、前年に登場したフラッグシップモデルと同じチップセットを乗せた、廉価版の端末を出すのが、Googleのエグいところです。普通のメーカーには真似できない。
石野氏:しかも、およそ半額くらいの安さで。
法林氏:そう。Pixel aシリーズはそういう意味で強烈だけど、それはGoogleが、商売として頑張っているわけで、Androidを広めたいという狙いもわかる。もちろん、Pixel 8、Pixel 8 Proを購入したいとうユーザーの気持ちは否定しないけれど、Pixel aシリーズは価格が全然違うからね。
石川氏:それについては、Pixel 8の説明会の時に、「ユーザーはPixel 8aの発売まで半年間待つんじゃないですか?」と質問したら、「Pixel 8とPixel 8 Proは素晴らしい仕上がり」っていう、少しずれた回答をされました。
法林氏:そりゃ、Pixel 8の発表会で、そんな質問へまともに答えられるわけがないでしょう(笑)
石川氏:答えなんて求めてないですよ(笑)
石野氏:反応を見たかっただけ(笑)
法林氏:価格の安いスマートフォンを待てばいいというユーザーがいれば、最高スペックのスマートフォンが欲しいという人もいる。それってトヨタ車を買う人が、カローラを選ぶか、プリウスを選ぶか、クラウンを選ぶのかという話と同じこと。
石野氏:でも、カローラとプリウスほどの差はないんですよね。
房野氏:私はもはや、無印のPixelとPixel aシリーズの違いが、ほとんどわかりません。Pixel 8 Proが違うのはわかりますけどね。
石野氏:そうですね。今回のPixel 8 Proは機能がしっかり強化されていて、Google側の数を売りたい本気が、こちらにも伝わってきます。
石川氏:Pixel aシリーズはサイズ感がよくて、持ちやすさが売りだけど、今回のPixel 8は前モデルより小さくなっていて、いいサイズ感ですよ。
石野氏:今回はサイズなどの見直しがあって、Pixel 8は持ちやすくなった。一方、Pixel 8 Proは3眼カメラが、5000万画素、4800万画素、4800万画素という構成になっている。3眼の全てが5000万画素に迫るスマートフォンなんて見たことがないので、すごいことをしているなと思いましたし、しっかりと差別化ができている。Pixel aシリーズは、もっと中途半端にすることで、より差別化できるかな(笑)
法林氏:Google Tensorを搭載したPixel 6シリーズ以降、普及モデルとフラッグシップモデルの差別化をどうするかで、Googleは少し迷っている気がします。
房野氏:次のPixel 8aでは、Pixel 7シリーズに搭載されていたGoogle Tensor G2を搭載する可能性はありますか。
石野氏:いや、ないと思います。
法林氏:おそらく、新型のチップセット(Google Tensor G3)の生産量は、翌年のaシリーズでの採用分を含めて、計画されているはずです。
石野氏:aシリーズやタブレットも含めて発注をしないと、生産量が限定されて、コストがかかってしまいますからね。
房野氏:では、将来「Pixel 9」シリーズ(仮称)が登場したら、「Google Tensor G4」(仮称)が搭載されて、Pixel 9aにも同じチップが搭載される……そんな流れでしょうか。
法林氏:順当にいけば、その流れだろうけれど、アップルは「iPhone 15」シリーズと「iPhone 15 Pro」シリーズで1世代分の差をつけ始めたので、Googleも同じことをする可能性は、十二分にあると思います。
石川氏:Google Tensor G3って、具体的なスペックを公表していましたっけ?
石野氏:発表していないですね。
石川氏:Google Tensor G3という名前の、中身が実はGoogle Tensor 2っていう可能性はありませんか?
石野氏:AIの処理速度が上がっているので、さすがにそれはないんじゃないですかね。
法林氏:チップセットの性能が向上する曲線って、時間を経過する毎に、緩やかになっていくもの。世代間で差が出にくくなったのなら、1世代前のチップセットを普及モデルに搭載する経営判断は、正しいと思う。Googleもいずれ、アップルと同じような判断を下すかもしれません。
あと、Google Tensor G3が3ナノプロセスか、4ナノプロセスかという議論をしている人がいるけれど、はっきり言って性能的に極端な違いはない。むしろ、このタイミングでプロセスルールをアピールしている、アップルの姿勢には賛同しにくい。Googleがチップのスペックを主張していなくて、消しゴムマジックといった機能面をアピールしているのと対照的。
石野氏:ユーザーにわかりやすい機能を、しっかりとアピールできている。
法林氏:そう。そもそも、なんで何nmというプロセスルールの話が注目されたかというと、PCのCPUでもスマートフォンのチップセットでも基本は同じなんだけど、たとえば、「次期モデルに搭載されるチップセットはプロセルスルールが進んで、より微細になり、結果的に消費電力も抑えられるはずなので、来年のモデルを待った方がいい」なんていう考え方をしていた。ところが、今はプロセスルールの値だけが評価軸になってしまっている。しかもプロセスルールがここまで進んでくると、一般的な用途で明確な差は見えにくくなっている。プロセスルールばかり気にしていると、モノの本質を見失ってしまう。
石野氏:もちろん、プロセスルールを微細化した分、詰め込めるトランジスタの量が増えているので、AIの処理などで余力は生まれるけれど、そんな事をユーザーに伝えてもしょうがない。だからこそGoogleは、〝編集マジック〟だったり、〝ベストテイク〟といった、「ユーザーのできること」を、わかりやすく見せてくれている。
房野氏:編集マジックは、ユーザーから評価されますか。
石野氏:ウケるんじゃないですかね。すごい機能ですよ。ただ、注意しておきたいのは、どこで処理しているのかわからない。ネットワークにつながっていないと動かないし、クラウド上で処理している気もする。
法林氏:ローカルでやったほうが、処理は速いと思うけど、クラウドも一部使っているはず。
石野氏:おそらくですが、被写体の特定などの機能は、スマートフォン自体で処理。生成AIで背景を書き込む作業は、クラウドで……といった使い分けをしていると思います。〝消しゴム音声〟機能もすごいですしね。
石川氏:あの分離技術はすごいよね。結構、AIの世界が面白くなってきている。最近はアドビもAI推しですし、Googleはスマートフォンで画像処理を強化している。クアルコムもAI性能をアピールしている。懸念点としては、これからフェイク画像のようなものが、世間にあふれてくる可能性がある。最近は、ここで加工した、ここで編集をしたという事実を書き込めるツールも出始めていますが、来歴情報をデータにどう残すのかも、大事になってくる。
石野氏:編集マジックの生成力がすごすぎて、来歴情報を義務化しないとまずいとすら思ってしまいます。記念写真を撮って、「この人は最初からいませんでした」といった加工も簡単になってしまう。すごいと思う反面、ちゃんとルールを作らないといけないとも思います。