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【勝手にブック・コンシェルジュ】「大奥」で名演を見せた鈴木杏さんに贈る、老人と忠実なる愛犬の物語「年月日」

2023.10.31

〝無私の人〟を演じた杏さんに届けたい、老人の艱難辛苦な4ヶ月間を描いた小説

主人公は72歳の先じい。千年に一度クラスの大日照りで、田畑は枯れ果て、種まきも出来ないと悟った村人たちは全員、再び雨が降るまでは村を捨てることを決意します。先じいもそのつもりでした。でも、見つけてしまうのです、自分の畑でトウモロコシの芽が1本顔を出しているのを。

2014年には村上春樹に次いでアジアでは2人目となるカフカ賞を受賞し、中国でノーベル賞作家・莫言と並び称される閻連科の『年月日』は、たった一人、村に残る道を選んだ年老いた農民の艱難辛苦の約4ヶ月間を描いただけの小説です。

でも、その「だけ」がどれほどスケールの大きな物語を生み出し、終盤、どれほど熱い涙と鳥肌が立つ感動をもたらすか。

断言します。読んでしまったら、先じいとその忠実なる愛犬、全盲のメナシを生涯忘れられなくなることを。

周囲を山々で囲まれた村に残った先じいは、トウモロコシの小さな苗を何とかして育て上げようと粉骨砕身尽くします。

〈ひと雨降って山から逃げ出した村人たちが戻ってきたら、このトウモロコシを分け与えてやりたいんです。これはこの山脈が生き返るための大事な種なんです〉と神様に祈りながら。

自分と犬の小便をまいてやり、トウモロコシから目を離さないですむように、村から八里半の斜面に住み、わずかな食糧とトウモロコシを守るためにネズミと知恵比べをし、村の井戸が涸れれば山の奥に分け入り、40里も離れた谷で見つけた小さな池から水を運び、その帰り道に遭遇した狼の一群と戦い──。

どんな困難が立ちふさがっても、決して心折れることなく、太陽に鞭をふるって反骨心を示す先じいのガッツに胸が熱くなること間違いなし。

〈わしの来世がもし獣なら、わしはおまえに生まれ変わる。おまえの来世がもし人間なら、わしの子どもに生まれ変わるんだ。一生平安に暮らそうじゃないか〉

先じいとメナシの魂の奥の奥で理解しあい、信頼しあい、慈しみあっている関係が全世界のケモノバカの胸を撃ちぬくこと間違いなし!

いよいよ生き延びられないと悟った時、先じいがメナシに提案する銅銭を使った賭けのエピソードだけでも落涙ものなのに、村人たちが帰ってきた時にわかるその賭けの真実を知ったら涙腺決壊確定。トウモロコシがどうなったかがわかる最終盤の感動的な描写に戦慄必至。本を閉じて、「読んでよかった!」と思うこと不可避。

ドラマ『大奥』で無私の人・平賀源内を生きた杏さんなら、先じいとメナシの在りように共感してくれるはず。杏さん版平賀源内に感銘を受けた視聴者の皆さんもまた、そのはずです。

文/豊崎由美(書評家)

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