こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
医者が看護師に対して職業差別の侮辱をした事件です。こんな発言をかましました。
「医者と看護師は対等じゃないんだぞ」
「対等に口きくのは間違ってるんだバカ」
「クソ生意気な女」
「バカ面白くない」
「バカ女」
裁判所は「侮辱だ。11万円はらえ」と命令。以下、分かりやすくお届けします(医療法人社団慈昴会事件:札幌地裁 R5.3.22)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
・加害者:暴言炸裂院長
・被害者:Xさん(看護師)
どんな事件か
ある日、院長とXさんは訪問診療に行くために車に乗りました。そこで暴言炸裂事件が発生します。
ーーー 何が原因で院長の暴言が炸裂したんですか?
Xさん
「私が院長にマスクの着用を促したんです。すると、院長はこんな発言をしてきました」
「クソ生意気な女」
「バカ面白くない」
「バカ女」
Xさん
「ほかにもこんなことを言ってきました」
「医者と看護師は対等じゃないんだぞ。医者は難しい大学を難しい試験を受けて入学して、厳しい進級試験を6年間やって、そしてさらに厳しい国家試験、看護師より数段難しい国家試験を合格してきたオレたちとオマエら看護師のあまちゃんの実習なんかとは、ワケが違うんだバカ」
「対等に口きくのは間違ってるんだバカ」
「いい加減さらせバカ「
「オレは許さないからな。このバカ」
「准看護師なんて中卒で高校科の高校行って看護婦になって准看クソ生意気なのいるからな」
「ただ経験年数だけあるっていうだけで、医者に指図するのバカバカしい」
「オマエら看護師っていうのはな、医者の指示がないと何もできない人間だからな、言っとくけど。自分の判断で一切できないんだからな」
完全なる職業差別ですね…。胸クソが悪い。
判決に挙げられていた院長の発言は以下のとおりです(判決文より引用)
Xさんは損害賠償請求110万円などを求めて提訴しました。
ジャッジ
裁判所
「法人は11万円を払え」(使用者責任ってやつです)
ーーー 理由は何でしょう?
裁判所
「繰り返し『バカ』という侮辱的な表現が含まれている。Xさんに対する指導・教育の範疇にとどまるなどとは到底評価することができない。Xさんに対する不法行為を構成することは明らか」
▼ 録音最強
Xさんはタクシーの中での会話を録音していました。これが決め手でしたね。録音がなければパワハラ加害者は「そんなこと言ってない!」と反論してきます。そうなれば負けてしまうんです。被害者に立証責任があるので。でも録音があればトドメをさせます。暴言を吐く上司と働いている方は常時録音で働きましょう。
▼ 金額
11万円と低めだった理由は、おそらく、1回の出来事で10数分と短かったからだと思います。日常的言われていたことを立証でき、さらに精神疾患などにかかってしまった場合には慰謝料はハネ上がります。
▼ 退職勧奨はOK?
Xさん
「あと、違法な退職勧奨を受けました」
ーーー どんな理由で退職勧奨を受けたんですか?
Xさん
「当時、職員の間で軋轢が生じていたんです。パワハラ院長のあとに院長になった人はAさんを擁護していました。ある日、その院長は私に『Aさんに優しくするように』と言ってきました。私は『仕事上の付き合い以上はできない』と答えました。すると院長は私の査定を下げるなどと圧力をかけ、さらに『辞めるように』と退職を迫ったんです」
ーーー 裁判所さん、どうですか?
裁判所
「違法とまではいえない。理由は以下のとおり」
[理由]
・XさんはAさんのことを「人として嫌」と感じていた
・AさんはXさんとの関係が原因となって感情失禁や過呼吸の症状が出ていた
・後任院長が「Aさんへの接し方を改善するよう」伝えたがXさんが応じなかった
・訪問診療先からXさんへのクレームがあった
■ 解説
「ユー、辞めてくれない?」がすべて違法になるわけではありません。やりすぎじゃなければセーフなのです。具体的にいえば、少し長くなりますが → 社会通念上、相当と認められる限度を超えて労働者に不当な心理的圧迫を加えたり、または、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職の意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動がされた退職勧奨行為が違法となります。
セーフとなったコチラのケースも良ければどうぞ。
さいごに
資格を振りかざしてエラそうにする発言、ヒドかったですね。医者だけじゃなく弁護士にもそういうタイプのカンちがいオジサンがいます。こちらもどうぞ。
部下弁護士へのパワハラ事件です。
▼ 相談するところ
暴言を録音をゲットできれば労働局でも損害賠償請求できます(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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