贅沢をしたいと考える消費者心理を捉えた
客単価が上がっている理由の一つに、消費者の食事代に対する意識が変化したことがあると考えられます。
総務省の家計調査によると、2019年の単身世帯の月間の外食費は10,919円、2022年は8,264円でした。24.3%減少しています。勤労者世帯は16,603円から12,022円へと27.6%減少しています。
これは1店舗当たりの支払い額が縮小したのではなく、飲食店に来店する頻度が下がったためと言われています。消費者はたまに行く飲食店で贅沢をしたいと考えるようになってきました。
しかも、今は競合のファミリーレストランが軒並み値上げを断行しています。例えばガストのコーンピザは650~700円、サイゼリヤは400円。カルボナーラはガストが750~900円、サイゼリヤが500円です。価格では圧倒的な差がついており、消費者が1品当たりの単価が安いと感じればそれだけ注文する量が増えます。
値上げを行わないことで得られる意外な恩恵がありました。
経営陣に勝算があるのは間違いないでしょう。インフレの影響でサイゼリヤの客単価が増加し、1店舗当たりの売上高は上がっているためです。しかも、営業時間を縮小したことで人件費をカットでき、経費負担の軽い店舗運営ができます。
筋肉質な店舗運営体制を進めるサイゼリヤ
アジア事業は極めて好調です。2019年8月期の売上高は373億9,400万円、2023年8月期は627億4,000万円で、1.7倍に拡大しました。1店舗当たりの売上高は9,100万円から1億2,900万円まで42.2%増加しました。
アジアの店舗でも客単価が上がっています。2019年8月期の566円から2023年8月期は850円まで高まりました。出店も積極的に行っており、店舗数は411から485まで増加しています。
そのため、客数の増加も顕著。年間6,600万人が7,300万人となりました。
サイゼリヤは国内の店舗の閉店を進めています。その一方で、海外の出店には積極的です。国内では不採算店を撤退し、値上げを行わずに1店舗当たりの収益性を高めました。海外では出店を重ね、業績を支えています。国内事業はコロナ禍とインフレを経て筋肉質になっており、コスト高の負の影響が取り払われると急速に利益率を高める可能性があります。
取材・文/不破聡