デフレの象徴サイゼリヤが、急速なインフレによるエネルギー高、原材料高に苦心しています。
2023年8月期の営業利益は72億2,200万円で、前年同期の17倍となりました。本調子を取り戻しつつありますが、営業利益率は3.9%。コロナ前の2019年8月期の6.1%と比較すると回復が遅れています。
利益率低下の主要因となっているのが、国内事業の不調。未だ15億円の営業赤字を出しています。サイゼリヤは国内事業の赤字を海外で補填する特異な収益構造となりました。
一貫して値上げを行わないその真意は?
2023年8月期のサイゼリヤの日本事業は、14億9,100万円の営業損失(前年同期は21億100万円の営業損失)でした。赤字幅はやや縮小しているものの、大幅に改善されているわけではありません。
好調なのが中国を中心としたアジア事業で、営業利益は前年同期の3.8倍となる84億5,000万円となりました。中国は2022年12月にゼロコロナ政策を解除。人々の行動制限は解かれて消費活動は戻りました。2023年8月期のアジア事業の売上高は前年同期の1.5倍となる627億4,000万円でした。
サイゼリヤは松谷秀治社長自らが、国内において「ミラノ風ドリア」などの主力商品の値上げを行わなと一貫して明言しています。同社は物価高に見舞われる前から価格競争力の高さが一番の武器であり、他のファミリーレストランとの差別化につながっていました。
海外事業で赤字補填をしつつ、物価高が落ち着くのを粘り強く待つということでしょう。
ただし、国内の店舗がコロナ前よりも収益性を高めているのは確か。仮にサイゼリヤがこの難局を乗り越えてインフレが落ち着けば、コロナ前よりも利益率の高い店舗運営ができるかもしれません。
1店舗当たりの収益性を高めた謎の現象が起こる
下のグラフはサイゼリヤ国内事業、2019年8月期と2023年8月期の売上高と営業利益の比較です。2023年8月期は営業赤字になっていますが、売上高は2019年8月期の水準よりも高くなっています。
※決算短信より
驚くべきことに、2019年8月末時点での店舗数は1,093で、2023年8月末は1,055でした。売上高は増加しているにも関わらず、店舗数は減少しているのです。売上高を店舗数で割って単純計算で1店舗当たりの売上高を算出すると、2019年8月期は1億900万円。2023年8月期は1億1,400万円でした。5%増加しています。
更に驚異的なのが、サイゼリヤはコロナ禍以降、24時間営業を取りやめていること。深夜営業をしていた渋谷東急ハンズ前店や池袋芸術劇場前など、都内各地の店舗は23時で閉店しています。営業時間を短縮しているのも関わらず、売上高を引き上げたのです。
その要因の一つに、客単価のアップがあります。サイゼリヤの2019年の客単価は686円、2023年8月期は813円でした。18.5%上昇しています。しかし、料理の値上げは行っていません。