連載/山田美保子のデキる接客に学ぶ人心掌握術
「先日も担当させていただいたのですが……」
私事だが、8月18日から3泊4日で某病院に入院をした。巨大化した子宮筋腫を腹腔鏡手術で除去してもらったのだ。
手術を決意したのは4月のこと。某総合病院では「開腹手術で10日間の入院」と言われたのだが、「開腹」も「10日」も自分では現実的に感じられなかったので色々調べたり、セカンドオピニオン、サードオピニオンに聞いたりして、「腹腔鏡でやれますよ」と言ってくれる医師に出会えた。
それが5月。すぐに申し込んだのだが、人気の医師ゆえ手術は上記の日程になってしまった。それでも当初の予定=4泊5日より1日早く出てこられた。
冒頭の言葉は術前検査に行ったとき、採血を担当してくれた看護師によるもの。彼女は「前回は別のフロアでお目にかかったのですが…」とも言い、「今日は少し、お顔が白いようにお見受けします。体調はいかがですか?」と聞いてくれた。
実は私も彼女のことは憶えていた。手術について注意事項を記したペーパーに添って説明をしてくれた際、申し訳なさそうに「ジェルも、まつエクも外してきていただきたいんです。せっかくキレイにつけていらっしゃるのに、ごめんなさい」と言ってきた。
MRIやCT撮影の際にも地爪にするし、まつエクも当然NGだろうとわかっていたので、そのことには何も感じなかったのだが、彼女が「マニキュア」ではなく「ジェル(ネイル)」、「まつげエクステ」ではなく「まつエク」と言ったこと。「せっかくキレイにつけていらっしゃるのに」とも言ってくれたことに、いい意味での”若さ“と、美容への理解度の高さを感じ、気持ちがよくなった。
患者に寄り添う言葉のありがたさ
そういえば「開腹手術で10日間」と言った総合病院の女性医師にMRI前の“まつエク”について確認したところ、「私はそういうことはわからないので他でMRIの担当に聞いてください」と言われ、少々困ってしまった。
「ジェル」と「まつエク」と言った看護師は、その際の私の顔色のことまで憶えていて、「今日は少し、白い」と言ってきたのである。
病院だから、ほぼスッピンで出かけたのだが、まだ暑い頃だったので日焼け止めクリームを塗り、その上から確かに少し白めのパウダーを叩いていたその日の私。それを彼女に説明した後、「細かいところまで憶えていてくださり、ありがとうございます」と御礼を伝えた。ものすごく不安だったわけではないが、初めて行く病院であり、腹腔鏡手術とはいえ、4日も入院するのは人生初体験。それなりに不安もあったのだけれど、気が付くと、その病院の看護師さんや受付のスタッフは、患者や家族への話しかけや態度が全員完璧だったのである。
実は婦人科の腹腔鏡手術ではとても有名な担当医師も、物腰が柔らかで、患者に寄り添う言葉をたくさん持っている人だった。そりゃあ人と人なので“相性”というものはあるのだろうが、私は初診のとき、一瞬で「なんて話しやすそうな先生なのだろう」と思ったものだ。
一言で説明するならば、実際には両手を広げているわけではないのに、話をするとき、そうしているように見える人だった。つまり、身体を開いているということ。先生がオープンな態度だから、こちらも包み隠さず、なんでも話そうという気になり、長年、不妊治療をするも子供ができなかった話をはじめ、“婦人科通院歴”をすべて伝えた。
すると彼は、これ以上ないという優しい笑顔と声のトーンで、「これで婦人科は卒業です!」と言ったのである。もちろん、もっと若い患者さんにそんな言葉は言わないだろう。が、66歳の私にとっては、清々しい一言にも聴こえた。