こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
Xさん
「残業代600万円をはらってください」
会社
「あなたは【管理監督者】なので残業代はナイですよ」
ーーー 裁判所さん、いかがでしょうか?
裁判所
「うん【管理監督者】だね」
【管理監督者】は残業代をもらえません。ちまたの管理職=管理監督者〈じゃない〉んですが、今回は共同出資してたなどの理由から管理監督者と認定されました。以下、分かりやすくお届けします(ビットウェア事件:東京地裁 R4.12.23)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
どんな事件か
▼ 会社
・コンピューターのハードウェアの開発販売などを行う会社
▼ Xさん
・システムエンジニア
この会社の株式は、Xさんとほか3名が24%ずつ保有しました(Xさんは取締役ではありません)。おもに4人で経営していたようですが、共同経営あるあるで仲間割れが起きたようです。Xさんが退職して残業代を請求しました。
ジャッジ
裁判所
「Xさんは、取締役または役員とはいえないものの、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあったといえるので【管理監督者】だ。よって残業代は請求できない」
▼ 基礎知識
【管理監督者】は残業代をもらうことができません。労働時間・休憩・休日の規制が適用されないんです(労基法41条2号前段)。
理由は、労働時間を自らの裁量で律することができ、かつ、管理監督者の地位に応じた高い待遇を受けるため、労働時間の規制を適用するのが不適当だから、というものです。
注意が必要なのは、ちまたの管理職=管理監督者〈じゃない〉ということです。会社は「チミ、管理職になったんだから残業代ナシね」と言ってきますが、そんなことは法律に書かれていません。
【管理監督者】にあたるかどうかは、以下の3つの要素をミックスして判断されます。
・実質的に経営者と一体的な立場といえるような権限があるか
・自分の裁量で労働時間を管理できるか
・管理監督者にふさわしい収入か
上記は多くの裁判所が採用している基準です。
▼ 今回のXさん
裁判所は以下の理由を示して「Xさんは【管理監督者】だ」と認定しました。
・4人で誓約書を作成していた
「4人が会社の経営者層であり、経営判断は4人共同で協議し多数決で決定する」
・重要資産ともいえる会社事務所の購入についても協議していた
・月給(89万2000円)とボーナスが取締役と同額
・役員経費として高額な経費精算も行っていた
・休暇をとるときに休暇申請書を提出したことがなかった(他の社員は提出していた)
・勤務時間を管理されていなかった
というわけで、残業代を請求できずでした。
▼深夜の残業代は請求できる
しかし、【管理監督者】でも深夜の残業代は請求できます。Xさんの請求も14万円分だけ認められまた。
▼ ちまたの管理職
今回のXさんは、上記のような権限と高額給与が与えられていたので【管理監督者】と認定されましたが、ちまたの管理職で【管理監督者】認定されるケースは多くありません。会社が従業員の残業代をケチりたいから管理職にして「残業代ナシね」とホザいているケースが多いですね。良ければ下記もご覧ください。
相談するところ
会社に雇用されている方で【管理監督者】になるケースは多くありません。「チミ、管理職だから残業代ナシね」と言われ納得いかない方は、労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。
労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談しましょう。
今回は以上です。「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。また次の記事でお会いしましょう!
取材・文/林 孝匡(弁護士)
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