AIの進化はすでに不可逆。使うか使わないかではなく、どう活かすか
ワドワーニ氏はさらに今後数ヵ月で、「Adobe Firefly Audio Model」、「Adobe Firefly Video Model」、「Adobe Firefly 3D Model」にも取り組んでいくと明らかにしている。これまでビジュアル系の生成AIといえば、イメージするのは単純にテキストから画像が生成できるというものだったが、今後はベクターグラフィックスやデザインテンプレート、さらに音声、ビデオ、3Dとできることがどんどん増えて行く。
3つの生成モデルを発表し、今後数ヵ月内にあと3つの生成モデルを予告。
ツールが進化すれば、当然ながらクリエイターの仕事も変わる。だがこれは、「これまでに何度も繰り返されてきたことだ」とワドワーニ氏。フランス人画家、ポール・ドラローシュがカメラの登場に対して言った「絵画は死んだ」というセリフを引用し、「その後も多くのアーティストが続き、絵画がまだ生きていることは証明された」と語った。
「アドビのデジタルパブリッシング革命で生産性が向上した結果、プロフェッショナルな出版物へのニーズが高まり、市場は成長した。最近ではプレミアムなビデオ制作を拡張し、ソーシャルビデオなどに対応した結果、映像業界におけるプロダクションの仕事は2006年から500%以上増加している」(ワドワーニ氏)。
「創造的なコンテンツに対するあくなき需要はなくならない。コンテンツへの需要は過去2年で倍増し、今後2年で5倍に増加すると予想されている」と話し、だからこそ「FireFlyが必要」なのだと説明した。
「(AIによって)クリエイターはよりアジャイルに正確に自分のビジョンを実現できる。Fireflyはクリエイターがよりよく実験したり、アイデアを出したり、探索できるようにデザインされてる」とワドワーニ氏。AIに仕事を奪われるという声もあるが、AIという優秀なアシスタントを得ることで、人間はよりクリエイティブな仕事に集中できるようになるというわけだ。しかもこのアシスタントは、進化のスピードがとても早い。
「Adobe MAX」では例年、研究開発中の機能をエンジニアが自らチラ見せする「Sneaks」を実施している。今年もAIを用いたものを中心に、多くの次世代機能が披露された。写真内の被写体を自由自在に動かしたり、消したり、足したりできる「Project Stardust」や、動画でも同様のことができる「Project Fast Fill」、テキストでの指示とラフスケッチを組み合わせることで、より簡単に自分が目指すビジュアルを生成できる「Project Draw&Delight」などは、ごく近い将来、製品に採用されてもおかしくない。
「Project Fast Fill」では動画でも不要なものをワンクリックで自然に消せる。
まるで魔法のようなこれらのデモンストレーションを見ていると、ワドワーニ氏が言うようにAIが不可逆な現実であることを認めざるを得ない。クリエイティブの論点は、もうAIを使うか使わないかではなく、どう活かすかに移っている。
取材・文/太田百合子