連載/ヒット商品開発秘話
キリンビールの国産ウイスキー事業が好調だ。2022年の国産ウイスキー出荷額は、対前年比157%の約40億円。このうち日本国内の出荷額が対前年比148%の 35.1億円となっている。
35.1億円のうち15.1億円を占めるのが『キリンウイスキー 陸』(以下、陸)。対前年比196%とほぼ倍増している。2023年の売上は1月から8月までの累計で17億円とすでに前年を超えており、売れ行きはますます好調だ。
『陸』は2020年5月に発売され、キリングループ唯一の蒸溜所であるキリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所(静岡県御殿場市)で製造されている。主な原酒は、富士御殿場蒸留所で製造しているグレーンウイスキーとモルトウイスキー。選りすぐった多彩な原酒をブレンドし、ほのかな甘い香りと口当たり、何層にも感じる香味豊かな美味しさを実現した。
現在販売中の『陸』。2023年2月製造品からパッケージデザインがリニューアルされた
事業強化とブランド再編
「ウイスキーは男性がバーでうんちくを語りながら飲むのも、といった旧い文脈がイメージとして定着していたので、魅力的な新しい文脈を提供できるものとして『陸』が企画されました」
マーケティング本部事業創造部国産洋酒チーム カテゴリー・ブランドマネージャーの原田崇氏は、『陸』の企画経緯をこのように話す。
『陸』が企画されたのは2019年。この年に富士御殿場蒸留所で約80億円の設備投資が行なわれたことが理由にあった。
設備投資の背景には、日本のウイスキー市場が右肩上がりで伸張していたことに加え、日本のウイスキーが世界的に評価されるようになったことがあった。2010年代に入り、世界的に権威のあるコンテストで日本のウイスキーが金賞を受賞。同社のウイスキーも国際的ウイスキーコンテストの「ワールド・ウイスキー・アワード」で2016年、17年、19年に『富士御殿場蒸溜所シングルグレーンウイスキー AGED 25 YEARS SMALL BATCH』が「ワールド・ベスト・グレーンウイスキー」を受賞し、世界最高峰のグレーンウイスキーとして認定されるなどしている。
ウイスキー市場の拡大と世界的な高評価から、同社はウイスキーに注力することを決定。樽熟成庫の増強をはじめ、発酵・蒸留設備の新規導入を行なった。
ウイスキー事業に注力するのに伴い、ブランドの見直しも検討。プレミアムクラスに分類される高価格帯の『富士』と、手頃な価格で購入できる『陸』の2つに再編することにした。
キリンビール
マーケティング本部事業創造部国産洋酒チーム
カテゴリー・ブランドマネージャー
原田崇氏