iPhone 15シリーズはユーザーが〝持つ〟ことを意識
房野氏:本体素材は変わりましたが、ディスプレイサイズなどはiPhone 14シリーズから変わりませんでしたね。
石野氏:ディスプレイは変わらなかったけど、背面が少し丸くなったりしているので、結構変わった印象ですよ。
石川氏:基本デザインについては、もう完成していて、画面サイズをこれ以上大きくしたら使いにくいし、小さいのを出したら売れない。iPhoneとしての、基本的なデザインのテイストは、もう変わらないのかなとも思います。iPhone 15シリーズに関しては、縁が狭くなって、少し持ちやすくなったりはしていますがね。
石野氏:実際に持つと、近年まれに見ぬ〝変わった感〟があります。持ち心地が全然違います。
石川氏:Webで見ているだけだとわからないことなので、実際に触らないと。iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Maxは、前モデルから19g軽量になっていて、はっきりと違いがわかるけど、それも持ってみないとわからない。
石野氏:Proモデルがようやく持ちやすくなったというか、使いやすくなりました。ステンレススチールも、ゴージャスな感じでかっこよかったけど、やっぱり重かったな。法林さんが以前からおっしゃっていたことは、正しかったなと(笑)
法林氏:あり得ない重さだったからね(笑) 今年のモデルもつっこみどころはある。iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Maxは、チタンっていわれているけど、正確には「チタン合金」だからね。あと、チタンフレームではなく、フレームをアルミニウムに変更して、外側にチタンバンドを巻いている。
房野氏:iPhone 14 ProやiPhone 14 Pro Maxは?
法林氏:アップルは「ステンレスフレーム」と表現していました。だから重かった。今回は内部のフレームをアルミニウムにして、チタンのバンドを巻いている。
石野氏:外側に出ている、見える部分はチタンだけど、中はアルミということです。
法林氏:チタンをバンドにしたのは、チタンの加工が面倒くさいから。これはいいと思う。ただ、フレームを変えたことで、熱周りの設計など、全部が変わる。それも含めてやったのは大きい。
房野氏:アルミフレームのほうが、放熱性は高いのでしょうか。
法林氏:どうですかね。厚さとかにもよるのでわからないけど、変えたことはよかったと思う。ここ数年間、「こんな重いスマホは持てない」と言い続けてきたけれど、ようやくアップルさん、ご理解いただけましたか、という感じ。
房野氏:カメラ周りのユニットは重くなっていますか?
法林氏:iPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Maxで違う。
石野氏:どちらも、前モデルから19g軽量化になっていますが、当然iPhone 15 Pro Maxのほうが、本体が大きいので、使う素材が多い。比率を考えると、iPhone 15 Pro Maxのほうが前モデル比で軽くなる幅は広いはずです。つまり、ほかの部分で重くなっているところがあって……
法林氏:それはおそらくカメラの差分だよね。今年のiPhone 15シリーズは、標準モデルもProモデルも含めて、ユーザーが〝持つ〟ということを見直したかなという印象。背面の角を落としたり、iPhone 15とiPhone 15 Plusのガラスのカラーバリエーションを変えた。結構きれいだと思うし、全体的なデザインを変えた年になりました。
房野氏:ボディの角を削ることで、内蔵するバッテリー容量が小さくなったりはしないんですか?
石野氏:バッテリーパフォーマンス自体は変わっていないはず。スペックは公表していませんが。
法林氏:重さの話もそうだし、カメラの光学倍率を上げる話もそうだけど、ライバルとなるAndroidメーカーも光学倍率を上げてきているので、そこはキャッチアップしたね。
房野氏:光学ズームは、iPhone 15 Proが3倍、iPhone 15 Pro Maxが5倍。
石野氏:デジタルズームは25倍。
法林氏:デジタルズームで夜景の撮影をしたけど、正直なところ、あんまりきれいじゃない。夜景を光学のみで撮る時は、まあきれいというか、去年からだいぶ明るく撮れるようになったけど、デジタルズームをした時の仕上がりは、僕が見る限りではあまりきれいとはいえない。
石川氏:取材すると、ポートレート推しなのが伝わる。ノーマルカメラで焦点距離が切り替えられるようになっていたりします。アップルは人物の撮影推しですよね。
房野氏:ポートレート撮影はインカメラでもできますよね。
法林氏:ただ、メーカーが考えるポートレート撮影は、基本的にアウトカメラの性能を追求している。一方で、ユーザーの利用シーンを考えると、iPhoneに関しては、圧倒的にインカメラになる。アウトカメラで自撮りをする人は、ほとんどいません。Galaxy Z Flip5の自撮りが1200万画素のカメラなのに、なんできれいなのかというと、アウトカメラを使って、簡単に自撮りができるからです。iPhoneを使って、同じポーズで撮影ができるかというと、無理ですよね。これは、カメラのスペックを追求しているのか、ユーザーの利用シーンを追求しているのかの違いです。アップルが一生懸命、iPhone 15を作ったのはわかるけど、いまの若い世代が自撮りしているシーンを見ると、みんなインカメラを使っている。結局、メインカメラでポートレート撮影をするということは、ほかに撮影してくれる相手がいるということ。これを忘れてはいけません。
「Galaxy Z Fold5」(左)と「Galaxy Z Flip5」
房野氏:あと、iPhone 15 Pro Maxでは、最小ストレージが256GBになりましたね。
石川氏:まあ、そりゃそうでしょう。
法林氏:iPhone 15 Proの128GBモデルで、4K/60fpsの動画撮影は、外付けストレージがないと撮影できないようになっています。ただ、4Kで録画するのかという話ではあるけど。
石野氏:すぐにストレージがいっぱいになっちゃいますからね。
法林氏:さっき石川君もいっていたけど、今回のiPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Maxは、いままでのProモデル以上に、プロユースに進化しようとしています。
石野氏:とはいえ、アップルマニアはProモデルを買いますからね。
石川氏:家電量販店を見ても、明らかにPro Maxの在庫がない。入荷数の違いもあるでしょうけど、初動やモノ好きはPro Maxを買う。一方で、そこまでこだわりがないという人は、標準モデルを買う。このすみわけはできてきています。
法林氏:ただ、ProやPro Maxのメリットがプロユース指向になってくると、多くのユーザーにとって本当に必要な機能なのかと疑問が出てくる。それよりも、他社製品と比較した中で、ユーザビリティとかの適正を考えるほうが大事。
石野氏:画角を変える機能とかは面白いですけどね。
石川氏:これまでのiPhoneは、誰でも簡単に、なにも考えずに撮れるという方向だったけど、Proモデルは考えて使うカメラになってきた。ただでさえ狭い市場なのに、Xperiaの立つ瀬がなくなってしまう(笑)
法林氏:iPhoneとしては、転換期に来ているのかも。iPadシリーズは、動画の編集をする人は別として、Proモデルを買う必要がほとんどなくなっている。
石野氏:iPadのクラス分けと似てきましたよね。とはいえ、iPhoneのProシリーズは、もともと16万円くらいするものですから、それでもいいという考え方もあると思います。
法林氏:auから出る「TORQUE G06」は10万円切りだよ? 本体を落としても割れないのに(笑)
石野氏:まあ、Proモデルはマニアックなユーザーが買うものですから。今年に関していえば、やっぱり標準モデルがよかったです。ガラスがきれいだし、メインカメラが4800万画素になって、劣化のない2倍ズームができるようになった。方向性としては、iPad Airっぽいですよね。
石川氏:今回のiPhoneもそうだし、Xperiaもそうだけど、カメラセンサーがスマートフォンを決めている。
石野氏:センサーはソニー製ですね。
石川氏:そりゃ、ティム・クック(アップルCEO)がソニーの工場に行くくらいだからね。
石野氏:今回面白いのは、メインカメラが4800万画素で、ピクセルビニングをしながら、2400万画素で記録されるという仕組み。
房野氏:その仕組みについて、もう少しかみ砕いてご説明いただけますか。
石野氏:ちょっと難しいんですよね。ピクセルピッチは、1200万画素相当の4倍になっているんですけど、4800万画素と1200万画素の両方で撮影し、それを合成することで、真ん中の2400万画素相当の写真が残る。
房野氏:一度のシャッターで、複数枚の写真を撮影しているということですね。
石野氏:そうですね。
法林氏:いまのスマートフォンは、1回シャッターを切ると、同時に複数枚の写真を撮ることができます。iPhone 15では解像度の違う写真を複数枚撮って、あとから合成しています。
石川氏:撮影後にピントを変更できるのも、この仕組みのおかげですね。
石野氏:暗いけど解像度が高い写真と、明るいけど解像度が低い写真ができて、それを合わせることで、明るくて解像度が高い写真になる。カメラセンサーもすごいけど、ソフト面でも、すごいことをやっています。
法林氏:それをやるためには、イメージセンサーのデータ読み出しも早くないといけないし、転送も速くないといけない。解像度の違う写真をうまく合わせないといけないので、専用のエンジンが必要になってきます。
房野氏:写真の合成という意味では、Google Pixelシリーズもうまいイメージがありますね。
石野氏:そうですね。PixelもiPhoneも得意です。ただ、iPhoneはなぜか、そのコンピュテーショナルフォトグラフィーが、デジタルズームにあんまり反映されない。25倍ズームなので、仕方ない部分もありますけど、光学5倍での撮影ができるのに、なんで25倍になるとこんなに劣化しちゃうのかなと思ってしまいます。
石川氏:その点、サムスンのズームはすごいよね。iPhone 15 Pro Maxの、内部で光を4回屈折させる技術はすごいなと思ったけど。Androidメーカーでも、ペリスコープとしてズームを実現しているところは同じ仕組みのものはあるけど、レンズが大きく、重くなってしまう。サイズを変えずにできるのはすごいですよね。
石野氏:f/2.8で、光を4回屈折させて、光学5倍ズームができるのはすごく優秀。なのにデジタルズームになると……
法林氏:デジタルズームのほうには、あまり手が入っていない感じだよね。
石野氏:デジタルズームが下手なのは事実。その点、サムスンやグーグルはすごいですよね。
法林氏:あと、ライバル各社がアピールしているけど、結局、今回も月は撮れない。東京駅の夜景を東京駅とかを撮影しても、きれいといえばきれいだけど、拡大すると「こんなもんか」という印象になる。
石野氏:それと、アップルは「写真のゴーストが減った」といっているけど、普通に出ます。前モデルがひどすぎただけで、まだ合格とはいえないです。
法林氏:もう1つ気になるのが、写真アプリを見ていると、HDRで撮影した写真を見返す時に、HDR表示へ切り替えて表示される。画面の明るさが勝手に変わって気持ちが悪い。
房野氏:明るさが変わるところは、見せないでほしいですよね。
石野氏:明るくしているぞっていうアピールかも(笑)
房野氏:カメラ以外に、iPhone 15シリーズの注目点はありますか?
石野氏:やっぱり、USB-Cじゃないですかね。本当に楽になりました。ほかの機器を充電できるのがいいですよね。
石川氏:いろいろなものを共有できるようになったのはいいけど、一方で家にはLightningのケーブルが大量に余っている。家族用のiPhoneはしばらく従来機を使うから、あと数年はLightningのケーブルが残るのかな。
法林氏:USB-Cになったのはよかったけど、遅いよね。3年前にやっててほしい。これまでやらなかった理由が何かは気になっていて、EUにいわれたから仕方なく変えたのか、ユーザビリティを考えたのかは見えてこない。現実的に、Proモデルの方向性を考えると、データ転送速度が追い付かないので、そういう意味では正しい進化だと思います。
石川氏:Lightningには、MFi認証というものがあるので、USB-Cになったことでラインセンス収入がなくなるアップルは大丈夫なのかなと。ただ、発表会で盛り上がったシーンが、USB-Cの対応と、iCloudに6TB、12TBプランの追加を公表したところ。毎月3000円くらいを払う人がいると考えると、サービス収入としてはペイできるのかな。
石野氏:毎月3000円って、iPhoneの分割に近いですからね。
法林氏:USB-Cになったのはいいとして、既存のLightningケーブルを10本アップルストアに持っていったら、新品のUSB-Cケーブルと交換するとか、そういう対応はしてほしいよね。環境にやさしいアップルなんだから。
石川氏:あれだけいうなら、店頭で回収するとかはやってほしいですよね。