スペースXで火星移住を目指す
イーロンが人類の火星移住計画と、それを支えるために必要な巨大な宇宙船の開発を発表したのは、2016年にメキシコで開催された「国際宇宙会議2016」のステージ上でした。
「Making Humans a Multiplanetary Species(人類を多惑星種にする)」と題されたその講演で、イーロンはまず「地球に住み続ける限り、戦争、伝染病、小惑星の衝突などによる滅亡のリスクが存在する」と指摘しました。しかし「もし他の惑星や天体にも人類が住む手段を持てるようになれば、地球が滅びても、人類自体は生き続けることができる」と発言しました。
そのために、イーロンは「巨大なロケットと宇宙船を開発し、一度に100人以上の人間を火星に送り込み、そして40〜100年かけて、火星に100万人以上の自律した文明を築く」と表明しています。このようなビジョンをイーロンは学生時代にはすで持っており、これがスペースXという宇宙企業を設立し、CEOを務める最大の動機なのかもしれません。
現在、スペースXは「スターシップ」と呼ばれる宇宙船と、それを打ち上げる「スーパー・ヘヴィ」と呼ばれるロケットを開発中です。これらの機体は、直径9メートル、全長120メートルという巨大さを誇り、スーパー・ヘヴィには33基ものロケットエンジンが搭載されています。
これにより、地球の低軌道に100トン以上の質量を打ち上げる能力を備える革新的なロケットが実現されます、そして、スターシップは単なる大型のロケットだけでなく、火星移住計画を実現するために必要な機能も組み込まれています。また、機体の垂直着陸技術は、大気が希薄な月や火星など、ほとんど大気のない惑星への着陸にも適用できる利点があり、こうした技術開発が進む過程で、コストも大幅にダウンすることが予想されます。
テスラの本当の強みはVPP
電気自動車メーカーのテスラ(Tesla)は、2003年にシリコンバレーの技術者たちによって設立されました。実は現CEOのイーロン・マスクは創業者ではなく、2004年にテスラに3000万ドルといわれる多額の投資をして経営に参画しました。
創業当初から、従来のガソリン車に代わる電気自動車を開発することに信念を持っており、社名もテスラ・モーターズ(Tesla Motors)としてスタートしました。
2008年にテスラが初の電気自動車「ロードスター」を発表し、その後、2012年に「モデルS」が登場しました。
同社のミッションは「世界における持続可能エネルギーの移行を加速させること」です。
2017年に入り、自動車メーカーから業務が本格的に拡大していくフェーズで社名を「テスラ」に変更しています。その後も業績は右肩上がりで上昇していき、株価も2021年10月に米国企業で5番目となる1兆ドルを突破しています。
また2023年6月時点で、世界の自動車販売に占めるEVの割合が19%まで上昇しており、EV市場の拡大とともにテスラの売上高も上昇することが見込まれています。
このように、テスラはEVメーカーとして広く認識されていますが、実際の強みはバッテリー管理技術にあります。それがテスラの「PowerWall」です。
たとえば、テスラの「モデル3」はバッテリー容量が82kWhあります。一方、総務省のデータによれば、一般家庭(3人家族)の平均電力消費量は約12.2kWh程度です。このことから、テスラの1台だけで、家庭の電力需要を1週間分賄うことができるといえます。
さらに、テスラは「SolarRoof」という、太陽光発電パネルを屋根に設置する製品を提供しており、これを用いて自家発電と蓄電を行うことができます。
さらに、テスラのビジョンは大きく「VPP(仮想発電所)事業」という壮大なコンセプトを描いています。具体的には、「PowerWall」と「SolarRoof」のシェアを拡大し、それらを一括して制御することを目指しています。
つまり、テスラは発電所を持たずに、発電所と同じ役割を果たすことを目指しているのです。