酔うと対人関係で積極的になってしまう?
「ビアゴーグル効果」は大いに疑問であることが指摘されているのだが、それでもお酒の席での対人交流にまつわる失敗や後悔の体験を持つ人は少なくなさそうだ。つまり“酔った勢い”で人間関係の距離を縮めてしまったことで起きるさまざまな間違いである。
ご存知のように昨今の夜の街では路上でのいくつもの勧誘が行われているが、普段なら見向きもしなくともやはりお酒が入っているとフラフラと勧誘に乗ってしまいがちになるのかもしれない。これもやはり“酔った勢い”なのだろうか。
“酔った勢い”に近い意味として「液体の勇気(liquid courage)」という表現があるのだが、これはお酒の力を借りて何かをする勇気を出すことを表す表現で、“景気づけの一杯”というフレーズにも通じるものがあるだろう。
「ビアゴーグル効果」は否定された今回の研究だが、一方でこの「液体の勇気」は機能していることが示唆されている。まさに「液体の勇気」がさまざまな間違いの元凶になっていそうなのだ。
前出の実験では女性の写真を評価した後、参加者に近い将来に最も会ってみたいと思う女性を4人挙げてもらったのだが、これに関してはアルコールの影響が明らかになったのである。
アルコールを摂取したグループは、将来の交流パートナーとして最も魅力的と評価されたグループの女性を選ぶ傾向が顕著に高かったのである。これはアルコールが相手の魅力を高めているのではなく、むしろ魅力的な人々に近づき交流したいという意欲を高めている可能性が示唆されるのだ。つまり「液体の勇気」は実際に機能しているのである。
アルコールを飲むと身近な異性がよりいっそう魅力的に見えるというわけではなく、「液体の勇気」によって魅力を感じる異性にアプローチする意欲が高まるということのようである。
その“勇気”が称賛されることがあるのかもしれないが、その一方でさまざまな誤解や間違いの原因となるリスクも当然あるだろう。この「液体の勇気」に起因する“失敗”は少なくなさそうだ。お酒の席への参加に際しこのリスクを確認しておくことか求められる。
酔うと“失敗”しがちになるのはなぜか?
酒飲みであればお酒にまつわる“失敗”はそれなりに体験していることとは思うが、アルコール摂取によって化学的に酔ってしまうのだからある程度は仕方のないことでもある。
とはいえすべてを酒のせいにしてしまうのはあまりにも無責任であり、人格を疑われる行為にもなり得る。「液体の勇気」の効果はあるにせよ、どうしてお酒の席はほかの状況に比べ突出してトラブルや間違いが多くなるのだろうか。
お酒の席では多くの場合、その時間にその環境に身を置いていて、身体がフリーであったりするだろう。ランチでの会食と違ってその日はもう仕事はないだろうし、自己裁量で生まれる時間的余裕もあることからいろんな“間違い”が起きる条件は揃っているといえる。そこに「液体の勇気」が加わればいろんなことが起きることは想像に難くない。そうした間違いは“現場で起きている”のである。
とすればなるべくお酒の席に参加しないというのもシンプルな解決策の1つになり得る。外ではごく親しい者としか飲まないと決めているだけで、すいぶんと間違いは減りそうである。
また今回のコロナ禍で見られるようになった「リモート飲み」も、そう考えてみれば実は洗練された“飲みニケーション”なのかもしれない。終了時間を決めて行う「リモート飲み」では間違いが起こることはほぼないのではないだろうか。
二日酔いの朝は昨晩飲み過ぎたことを後悔するばかりだが、それが「リモート飲み」などの家飲みであったならばひとまず胸を撫でおろすことができそうだ。
文/仲田しんじ