従来のサイフォン式コーヒーの抽出過程を自動化したコーヒーメーカー「Siphonysta(以下、サイフォニスタ)」。プロからもその味わいを評価され、コーヒー好きからアツい注目を集めている商品だ。
今回は、サイフォ二スタを開発した、タイガー魔法瓶株式会社の和泉 修壮さんに商品誕生の裏側についてお話を伺った。
*本稿はインタビューから一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
新しいコーヒー体験を提供するコーヒーメーカー
透明のシリンダーを採用し、スタイリッシュな見た目のサイフォニスタは、味わいはもちろん、「コーヒーを淹れる過程」も楽しめる点が魅力の一つだ。和泉さんは同製品の特徴について次のように話す。
「サイフォニスタは、スペシャルティコーヒーをどうしたら美味しく淹れられるかを考えて開発されました。スペシャルティコーヒーとは、高品質で流通量が少なく、コーヒーの中でもトップグレードに位置付けられるものです。サイフォニスタには、家庭でスペシャルティコーヒーを美味しく楽しめる『新しいコーヒー体験』を提供したいという想いが込められています」(和泉さん)。
特にコーヒーメーカーを開発するにあたり、今回スペシャルティコーヒーに注目した経緯について、こう続ける。
「スペシャルティコーヒーは生産者が限られており、流通しているコーヒーの5%ほどと希少なものですが、近年は少しずつ取り扱うお店なども増えてきました。以前は、コンビニのコーヒーも美味しく飲んでいましたが、スペシャルティコーヒーを飲んだ時、普通のコーヒーとは別次元だと感じたんです。ただ、コーヒー豆を購入し、お店の人に淹れ方を聞いても、自宅で再現するのがなかなか難しい。自宅とお店の味のギャップを埋めたいと思ったのが、サイフォニスタを開発したきっかけです」(和泉さん)。
サイフォン式へのこだわり
サイフォニスタはサイフォンを参考にして開発された。和泉さんには、敢えてサイフォンを採用したこだわりがあったという。
「最近、見かける機会が少なくなりましたが、サイフォン式でコーヒーを淹れているシーンって、つい見入ってしまうんですよね。ノスタルジックでかっこいいというイメージをお持ちの方も多いと思います。個人的には、自身が幼い頃、コーヒー好きの両親がサイフォンを使っていたのを思い出します。当時から、香りの良さや、見た目のかっこよさが印象的でした。また、サイフォンは高温で抽出するため、香りがよいうえに、すっきりした味わいのコーヒーに仕上がります。さらに、コーヒー豆をお湯に漬けてじっくりと抽出するため、さまざまな成分が混ざり、バランスのとれた深みのある味わいになるんです」(和泉さん)。
まったく新しいものを作り上げる難しさ
今回の新商品「サイフォニスタ」は、サイフォンを参考にながらも、「サイフォンではない、まったく新しいもの」だと和泉さんは語る。開発における当初の苦労を次のように振り返ってくれた。
「より面白く、よりコーヒーが美味しそうに見えるかを重視して、抽出したコーヒーを噴水のように上に噴き上げる仕組みづくりに挑戦しました。通常、サイフォンの場合は、最終的にコーヒーを下向きに抽出するので、逆のことをしています。そうした意味でサイフォンとはまったく別のものを開発していくので、すべて手探り状態だったんです。当初は開発とやり取りしていく中で、考えを言語化して伝えることに苦戦しました。実際に、コーヒーを飲んでもらったり、絵に描いて伝えたりとさまざまな方法のコミュニケーションを使いながら進めましたね。とにかく試作を作って、やり直しての繰り返しでしたね」(和泉さん)。
苦労の末に完成したサイフォニスタは、従来のサイフォン式では実現できなかった機能を兼ね備えることに成功した。
「サイフォン式のデメリットは、高温でないと抽出できない点です。味が安定するメリットもありますが、一方で、ハンドドリップのように温度を変えて味を調節できません。そこでサイフォニスタでは、全部で10通りの味の変化が楽しめるようにしています。コーヒーの濃度と苦味や酸味などの風味をそれぞれ3通りずつかけあわせ、全部で9通りの味を選択できる仕様です。そして最後の10通り目が『Dual Temp Brewing Method(2段階温度抽出法)』というこだわりの機能です。抽出中に温度を切り替え、スペシャルティコーヒー本来のおいしさを引き出します。プロのテクニックを自宅で再現して、最初は高温で抽出。後半は低い温度に切り替えます。雑味は抑えながら、豆本来の味を感じられる美味しいコーヒーに仕上げます」(和泉さん)。