こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指しています。
裁判例をザックリ解説します。
2リットルのペットボトルを顔面に振り下ろした暴行パワハラ事件です。
賠償額591万円。
Xさん
「ほかにも暴行がありました。録音があります」
裁判所
「その収録内容じゃ暴行は認定できないです」
録音も工夫が必要です。
以下、分かりやすくお届けします(マツヤデンキほか事件:大阪地裁 H30.12.14)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
▼ 会社
・電化製品の販売などを行っている会社
▼ Xさん
・ある店舗で家電販売などを担当
どんな事件か
Xさんは、入社してから4年間、最低ランクの人事評価が続いていました。上司の怒りは募っていったのでしょう。暴行に発展します。
▼ 暴行1
ある日、上司DがXさんに「商品券を探すよう」指示を出しました。商品券の数と売上データが一致しなかったからです。DさんいわくXさんが商品券を探そうとしなかったようです。
ーーー どんな暴行を受けたんですか?
Xさん
「足と腰を蹴られ、腕を7〜8回なぐられ、前屈みの姿勢で背中を5回、腹を3回なぐられ、頭を7回たたかれました」
ボコボコじゃないですか…。
その後、Xさんは友人にメッセージを送信しました。「上司に殴られたんがよ」「20発ほど」「頭は平手だったかなwww」などのメッセージです。そして自分の右腕を写真撮影しました。
ーーー 裁判所さん、Xさんの言い分どおりの暴行を認定できますか?
裁判所
「一部だけですね。右腕、頭、左腰は殴打されたと認定できます。それ以外については客観的な証拠がないので認定できないです」
■ ポイント
裁判所はザックリ認定はしてくれません。キチンと一つずつ「この暴行はあったのだろうか?」を検討します。今回は【写真】を根拠に認定しています。暴力を振るわれたときはすぐさま【写真】をとりましょう!Xさんのように、当日中に誰かにメッセージを送るのも有用です。証拠はチリツモで強くなっていきますので。
▼ 暴行2
別の上司Eによる暴行です。上司EはXさんに「入荷のための事務処理をするよう」指示を出しました。しかし、Xさんは「同僚を待っている」と答えて指示に従わなかったようです。
ーーー どんな暴行を受けたんですか?
Xさん
「2リットルのペットボトルを私の左目付近に振り下ろして殴ってきました」
あぶねっ!
Xさんは左目を写真撮影し、眼科も受診。左眼球打撲で全治1週間と診断されました。
ーーー 裁判所さん、このXさんの言い分はどうですか?
裁判所
「Xさんの主張どおりの暴行を認定できますね。閉廷!」
▼ ほかにもやられてるんすよ!
Xさん
「ちょっと待ってください!ほかにも殴られたりしてるんですが!以下のとおりです」
上司Cが太ももを蹴ってきた
上司Bさんが靴を飛ばして太ももに当ててきた
上司Eから頬を殴られた。倒れた際に髪の毛を掴んで起こされて、3回頬を殴られた
裁判所
「証拠がないです」
■ 注目
瞬殺です。証拠がなければホントに勝てないです。裁判は証拠が命です。
Xさん
「証拠があります。上司Cさんからアゴを殴られ、腹を蹴られた、傘立てを投げつけられました。これは録音があります。聞いてください」
裁判所
「聞きました。でもそんな暴行は認定できません」
↓ 正確にはコチラの判示(判決文をそのまま引用)
原告が主張するような 殴打音が録音されているとは認め難い部分が多々あることに加え、そのような音が発生する要因は、被告Cが原告に暴行を加えることの他にもあり得るから、録音内容からは被告Cがいかなる行為に及んだかは明らかになるものではない。また、上記録音内容によれば、原告は、被告Cからの語気鋭い叱責に対し、逐一反論を加えているのであって、このよう な原告の態度に照らせば、被告Cから暴行を受けたにもかかわらず、これを甘受し、暴行を止めるよう抗議しないということは考え難く、この点からしても、原告の主張は採用し難い
要は「殴られてたら抗議するでしょ」「抗議の声が収録されてませんよね」「ってことは暴行なかったんじゃね」ってことですね。録音するときは、裁判に出すことを念頭に置いて言葉を選ぶ必要があります。
▼ 賠償額
会社 591万円
安全配慮義務違反
うち休業損害337万円 1166日間
上司D 1万円
上司E 38万円
休職せざるを得なくなった原因が暴行にある、と認定されれれば休業損害が認められます。これがデカイですね。会社さんはご注意を。しかし、上司Dの1万円やすっ。