誠実な断り方が、その先の明暗を分ける
――例えば仕事を断らなくてはいけない場合、それをどう伝えるかは大事ですよね?
Nさん 入社してすぐの頃、社長からある脚本を「読んでおいて」と渡されました。その感想を、「あまり面白くない脚本でした」と伝えると「言葉を選びなさい」と叱られたのです。たくさんの方の労力や思いが注がれて、1冊の脚本が作られているということを考えなさいと。
断り上手になるというのは当時、折に触れて言われました。「断ることでその人との関係性がカットアウトされてしまったら、それはとてももったいないことだから」と。断っても、「また次お願いしますね」と笑顔で終われる方がいいですよね。
――次につながる断り方があると?
Nさん 「今忙しいんです」と断ってしまったら、たぶんその方は二度とオファーをしてくれません。新人の俳優を担当したらお願いに行かなくてはならない。だから、お願い出来る関係性は残しておいた方がいい。
その場合も、明確に理由を伝えた方が腹を割ってくれていると思ってもらえるかもしれないし、美しい理由を整えた方がいい場合もあって、相手との関係性によります。
そこに、一律定型文はないということです。
――マネージャーとしてのやりがいを感じる瞬間は?
Nさん 間接的にですけど、関わった作品が世に出て、観てくださった方が喜んでくれたり「感動しました!」と言っていただけることです。
試写会で作品の出来は確認しますが、お客様の反応が見たいので、担当するアーティストの映画が公開されたときは、絶対にいちど映画館へ観に行きます。
先日、『ミステリと言う勿れ』を公開3日目に映画館で観ました。客席は85%ほど埋まっていて、若い方から高齢のご夫婦、シートの上にクッションを置いたちっちゃな女の子がファミリーで来ていたり。
終わったあと、口々にいろいろなことを言いながら帰っていきますよね。それで帰り際にトイレに寄り、「〇〇が××だったね…」なんていう話をしているのを、トイレの個室で耳を傾けたりして(笑)。
さまざまな感想を耳にして、ああ届いたのだ…と思えます。ドラマなら放送後にエゴサーチのようなことをして。視聴者の方がどんな風に楽しんでくださっているかを知るのは、とてもうれしいことです。
色々な作品の中から本人と一緒に選んだものを多くの人に観ていただける、その選択は正解だったと思えたとき、とても大きなやりがいを感じます。
Nさんのより詳細な仕事観は、2023年9月29日発売の『芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら』(ワニブックス刊・1800円+税)で。“リアルな実体験談が何よりの参考書”と、芸能マネージャー陣が今に至るまでの半生を、アーティストがそのマネージャー観を熱く語っています。
取材・文/浅見祥子