常にフラットでいる
――アーティストに対して、「フラットでいるのがいちばんいい」とおっしゃってましたよね?
Nさん あまり落ち込んだりしないようにしています。傷つくことを言われたとして、いちいちグサグサきていたら、こちらのメンタルが持たない。振り回されない! というのは、自己防衛本能でもあるのかなと。
わかりやすいのは芸人さんかもしれませんが、表に出る方というのは、カメラ前とオフのときとでは違う。俳優も舞台挨拶等で、今から登壇します! というときにはギアを一段上げています。
しかも演じる役柄によっても精神的にアップダウンがあるでしょうから、伴走するマネージャーはむしろチューニングしてフラットでいる方が彼らもラクじゃないかと。現場により近かったときにそう思っていました。
――チーフとしても、フラットでいることを意識していますか?
Nさん アーティストに限らず、後輩にもそう。いつもフラットに優しくというのでなく、フラットに厳しいなら厳しい。その日によって急に優しかったり怖かったりしたら、「今日はどっちの日?」みたいになって、後輩としてもやりにくいですよね。
またいつもフラットでいるからこそ、ここ! という嬉しいときにアーティストと本当に喜びあえる気もします。その瞬間だけテンションが上がるのは、それだけ喜んでくれるんだなと。
――担当されている菅田将暉さんも、「チーフとの間に、特に決めごとはありません。ただ、これは! というときだけハイタッチをします」とおっしゃって。それが『あゝ、荒野』(2017年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したときや、初めての武道館公演のときだったそうですね?
Nさん 菅田とは普段からハイタッチするような関係性ではなく、本当にフラット。だから、お疲れ様! という感じでした。松坂(桃李)もそこは同じ。いつでもフラットである彼に、「その方が争いが少なくなるんです」と言われたことがあって。そうか! と、そこから学んだ部分もあります。
――そんな風に、アーティストから具体的に学ぶこともあるんですね?
Nさん ありますあります、もちろん。どんなに年下であってもハッとさせられたりします。人間関係にフォーカスしたことでいうと、菅田は「僕、嫌いな人って基本的にいないんですよね。それって損じゃないですか」と言われたことがあります。
彼は食べものの好き嫌いもなく、なんで? と話していたときに、「自分が嫌いだと思う食べものが仮にあったとして、それを好物だと思う人がいて。その人にとってこの上ない幸せをもたらす食べもののおいしさをわからないのって、すごい損ですよね」と言われて。深いな……と。
同じように「この人は嫌いだから」と、その人の良さを知らないままで関係性を閉じてしまうのは損です。もちろん一緒にいたい人、気の合う人はいるでしょうが、どんな人に対しても扉を開けておくというのも大事。それは俳優より、私たちマネージャーの仕事の方が必要な気がします。
――役を理解する上で俳優にその姿勢はプラスになりそうですが、普通の社会人であってもそう思えます。
Nさん 「怒りのエネルギーは疲れる」と言ったのは松坂です。そうか、私がぷんぷんと怒っている時間は無駄なのか! と(笑)。ゲームでいうHPを減らしている感じかも…と、怒っているのがばかばかしく思えました。
確かに仕事において怒るというのはパフォーマンス、ここで怒らないとなあなあにされてしまうかもしれないから「怒っている」というポーズをするだけで、本当に怒ることってほとんどないかもしれません。
また、そうやって先方とやりあっているところをアーティストが見て、自分のために戦ってくれている、と信頼関係が築けることもあります。