俳優やミュージシャンらアーティストと二人三脚で歩む芸能マネージャー。彼らには、現場への送迎に始まり、現場が滞りなく進むためにあらゆる気を配って行動する現場マネージャーと、そのアーティストが進むべき道、目標を設定してそこに至るまでの作戦を練り、キャリアを構築していく道筋をつくる“軍師”のような存在のチーフマネージャーとがいる。
いずれも担当するアーティストはもちろん、監督やプロデューサーらのつくり手、キャスティングに関わる人びとまで、多くの人と関りながら仕事を遂行していく、いわば“人間関係を構築するプロフェッショナル”。その極意とは? 木村佳乃、中村倫也、佐々木希、杏、松坂桃李、菅田将暉らが所属するTopCoatのチーフマネージャーであるNさんに聞いた。
仕事相手、部下、プライベート…人間関係を構築するヒントが散りばめられている
その時点で話せる範囲での、可能な限りの本音を心掛ける
――アーティストとの関係性を築く上で、日頃から意識していることはありますか?
Nさん ある程度キャリアのあるアーティストに、その場しのぎは通用しません。もちろん言えないことはあってすべてを本音で話すのは難しいですが、その時点で話せる範囲での可能な限りの本音、を心掛けています。
例えば出演した映画を観ていまひとつだと思ってしまったときに、「よかった」とはいわず、「作品としてはいまひとつだけど、お芝居はよかった」と言うとか。
作品の話をするときもそうで、必ず良い面と悪い面を提示します。ネガティブな要素があっても、「出番はそれほど多くはないけど、大きな見せ場があるから全体を通して印象に残ると思う」とか。アーティストが何かに迷ったとき、作品の感想にいつも「よかった」しか言わない人に意見を聞こうとは思わない気がするので。
――なるべく嘘はつかず、正直に自分なりの考えをきちんと示す。そうしてコツコツと信頼関係を築いていくと?
Nさん 元々私もオープンマインドなタイプではなくて。はじめましての人の中では、しゅん……となってしまう面も。でもアーティストとはほぼ1対1で向き合いますから、私にとっては距離をつめていきやすい。
とはいえなかなか心を開いてくれない人もいます。どんな関係性もそうでしょうが、時間はかかると思います。
――マネージャーさんって、社交的な方が多いのかと思っていましたが?
Nさん ウチのスタッフでも、半分はわりと人見知りという感じです。現場で一言もしゃべらないマネージャーもいますが、それはそれでアーティストとの信頼関係を築いていくんです。
現場で周囲とコミュニケーションを取って輪の中心のようにいるマネージャーが、「自分より目立ち過ぎ!」と実はアーティストとウマが合わないことだってあると思うんです。
プロデューサーさんや仕事で会う方もいろいろなタイプがいて、みんながみんな、社交的な人が好きとは限りません。人見知りな人が、同じような匂いを感じてシンパシーを抱いてくれるかもしれない。聞いたことにちゃんと正確に答えてくれる方が信用できますし。
――チーフとして、担当するアーティストのやりたいことを実現させるには、外部の人を巻き込むことも必要ですよね。社交的でなくても、そうした人との関係性を築くのにコツのようなものが?
Nさん チーフになると苦手とは言ってられないかもしれません。しゃべりにくいと感じる人がものすごい作品をつくる方で、苦手だからとそのままにしていたらご一緒することは出来ない。それはアーティストにとってハッピーなことではありません。
それなら自分がどこかで殻を破らないと。でも正直、私もそこはいまだに課題で。同じ部署で行動力のあるマネージャーに「ちょっと売り込んできて」とお願いしたりします。ウチの会社はマネージャー同士で競争する感覚がなく、もっというと上下やキャリアもあまり関係なく動かせてくれる。そこは強みじゃないかと思います。