2. 【2023年9月施行】精神障害の労災認定基準の改正ポイント
精神障害の労災認定基準では、業務による強い心理的負荷が認められる場合を例示しています。また、認定要件を満たすか否かの判断は、医師の意見と認定した事実に基づいて行うものとされています。
2023年9月1日に施行された改正労災認定基準では、従来と比較して以下の3点が変更されました。
(1)業務による心理的負荷評価表の見直し
(2)精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
(3)医学意見の収集方法を効率化
2-1. 業務による心理的負荷評価表の見直し
精神障害の労災認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」では、労働者に対して強い心理的負荷を与え得る具体的な出来事が列挙されています。
2023年9月の改正では、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」こと、および「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」ことが具体例として追加されました。
前者はいわゆるカスタマーハラスメント、後者は主に新型コロナウイルス感染症を想定したものです。
また、パワーハラスメントの6類型(身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)や、性的志向や性自認に関する精神的攻撃を明記するなど、時流に沿った具体例の追記等が行われました。
2-2. 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
従来は、精神障害の悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がなければ、業務起因性を認めない運用が行われていました。
しかし、既往症である精神障害が業務によって憎悪するケースもあります。
そこで2023年9月の改正では、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときは、悪化した部分について業務起因性を認めるものとされました。
2-3. 医学意見の収集方法を効率化
対象疾病の治療歴がない自殺事案や、業務による心理的負荷が「強」に該当するかどうか明らかでない事案については、主治医に加えて専門医に意見を求めるものとされています。
これらの事案について、従来は専門医3名の合議による意見収集が必須とされていました。
2023年9月の改正では、審査を迅速化する観点から、特に困難なものを除いて専門医1名の意見で決定できるように変更されました。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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