一時は巨大居酒屋チェーンを形成するが
やまやは2013年に居酒屋店「はなの舞」などを運営するチムニーを買収しました。チムニーは当時700店舗を運営する規模の大きい居酒屋チェーン。投資ファンドのカーライルが保有する株式と、市場に流通していた株式をTOBで取得しました。買収総額は140億円程度とみられています。
やまやはこの買収によって酒販店、卸、飲食店運営へと事業の幅を広げました。やまやは2018年につぼ八も買収しています。このM&Aで一時1,000店舗規模の巨大居酒屋チェーンの仲間入りをしました。
この外食事業がコロナ禍で深刻な打撃を受けました。2023年3月期の売上高は200億円ほど。2020年3月期の半分にも達していません。
チムニーは繁華街のビルに大型店を出店し、宴会需要を獲得していました。空中階の店舗はふらりと立ち寄る顧客が少ないため、グルメメディアで客単価の高い宴会客を集めていたのです。繁華街型で個室が多いつぼ八も同様の傾向がありました。宴会需要が消失した影響を現在も受けているのです。時間をかけて需要が回復するのを粘り強く待っているというのが本音でしょう。
小規模飲食店ネットワークの構築が勝因に
カクヤスは酒販店や配達が消費者にはおなじみ。しかし、売上高の7割(2020年3月期)は業務用酒販が占めています。
※カクヤス決算説明資料より
業務用酒販の売上高は2021年3月期に前期比44.6%減の425億9,300万円まで縮小しました。翌年もほぼ同じ水準でしたが、2023年3月期は前期比64.7%増の764億8,900万円となり、2020年3月期と並びました。
※カクヤス決算説明資料より
カクヤスは、ビール1本でも配達するというきめ細やかなサービスを提供しています。その地道な営業スタイルは、業務用酒販でも同じ。カクヤスは個人事業主が経営するような小規模店との広範なネットワークを構築しました。少量でも仕入ができ、店舗のドリンクメニューの作成サポートを行うなど、個人事業主にとってメリットの高いサービスを提供したのです。
小型店はリピーター相手の商売をしているケースが多く、行動制限が解除されると客足が戻ります。つまりカクヤスは需要回復の好影響を受けることができました。
ここまでだと、カクヤスは市況の好転で業績が回復したという内容で終わってしまいます。しかし、カクヤスはここで終わりませんでした。顧客開拓に動いたのです。
これまでの配送網を活かし、環状七号線の内側や外側、埼玉県・神奈川県の外郭を中心として営業活動を強化しました。
2024年3月期第1四半期の業務用酒販の売上高は、214億4,400万円となり、前年同期間比23.4%も上昇しました。カクヤスは、繁華街エリアの小型店の売上高がコロナ前と比較して24%、外部エリアでも13%伸びているとのデータを公開しています。狙い通りといったところでしょう。
※カクヤス決算説明資料より
この好調ぶりを受けてカクヤスは、2024年3月期の通期業績予想を上方修正しました。売上高は従来予想よりも4.3%高い1,306億円としています。
2社の経営戦略の差が顕著に表れた結果に他なりません。少なくとも現状はカクヤスの方がアフターコロナの需要を上手く捉えられているように見受けられます。
取材・文/不破聡