ドクタートラストが運営するストレスチェック研究所では、ストレスチェックサービスを利用した累計受検者163万人超のデータを活用することで、さまざまな分析を行っている。
今回は同社が2022年度にストレスチェックの実施を受託した1162の企業・団体における集団分析データをもとに、「高ストレス者率」「健康リスク」の業種別ランキングが発表されたので、その概要をお伝えする。
高ストレス者率ランキング
高ストレス者率とは、実際に受検をした人のなかで、高ストレス者と判定された人がどれくらいいるかを示した割合で、2022年度にドクタートラストでストレスチェックを受検した企業・団体の高ストレス者率の平均は15.5%だった。
表1
表1は高ストレス者率を業種ごとに算出したもので、高ストレス者率が高い順に示している。
高ストレス者率が高い業種は「製造業」で、以下「宿泊業、飲食サービス業」、「卸売業、小売業」と続く。高ストレス者率が最も高かった「製造業」は、全業種平均と比較すると3.9%高い結果となった。また「製造業」の高ストレス者率は2020年度以降、増加傾向が続いている(表2)。
表2
最も総合健康リスクが高い業種は「製造業」「医療、福祉」
ストレスチェックの結果を部署や、事業場ごとに分析した集団分析では、集団の「健康リスク」が示される。
健康リスクとは、企業や団体の中で仕事のストレス要因から起こり得る疾病休業などの健康問題のリスクを、標準集団の平均を「100」として示す指標だ。たとえば、健康リスクが「120」の集団は、その集団で健康問題が起きる可能性が、平均より「20%多い」ことを示している。
表3
総合健康リスクを業種別に算出、リスクの高いものから順に並べたものが「表3 業種別・総合健康リスクランキング」だ。「総合健康リスク」は、「仕事の負担・コントロール」リスク、および「上司・同僚からのサポート」リスクという 2つの指標をかけ合わせた数値。2つの指標への意味の理解と「現状の数値から何を読み取ることができるのか」が健康リスクを扱ううえでは、非常に重要なポイントになる。
表3のとおり、総合健康リスクが最も高かった業種は「製造業」「医療、福祉」で、以下「運輸業、郵便業」が続く。表1で見たように、「製造業」は高ストレス者率が最も高い業種でしたが、健康リスクも最も高いことがわかる。
総合健康リスクが同率トップである「製造業」と「医療、福祉」のうち、「製造業」は「上司・同僚からのサポート」において、「医療、福祉」は「仕事の負担・コントロール」において高いストレス負荷がかかっていた。さらに、「運輸業、郵便業」は「上司・同僚からのサポート」において、全業種の中で最も高いストレス負荷がかかっていた。
健康リスクが高い上位3業種、前年度より改善がみられる
表4
表4は、総合健康リスクについて、2022年度と2021年度を比較したものだ。2021年度より総合健康リスクが高くなった場合は赤、低くなった場合は青で示している。
2022年度の健康リスクが高い「製造業」と「医療、福祉」と「運輸業、郵便業」を2021年度と比較するとリスク値は下がり、改善がみられた。
「仕事の負担」で最も健康リスクが高い業種は「宿泊業、飲食サービス業」、以下「教育、学習支援業」
総合健康リスクを算出する1つ目の指標「仕事の負担・コントロール」リスクとは、個人ごとの仕事量の負担と、仕事量をいかにコントロールできているか、そのバランスがストレスに及ぼす影響を示している。
たとえば、仕事の量が多かったり困難な業務内容であったりしても、自分なりのやり方やペース配分で行うことができればストレスは高くならず、リスク値は低く算出される。
ところが仕事の負担はそれほどではなくても、順番ややり方が固定され、自らの裁量が生かせない状況では、ストレスは高まり、リスク値は高く算出されてしまう。
「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事の負担」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表5 業種別・仕事の負担ランキング」だ。
表5
表5は、数値が大きいほど「仕事の負担が多い」ことを意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出末る。
1. 非常にたくさんの仕事をしなければならない
2. 時間内に仕事が処理しきれない
3. 一生懸命働かなければならない
このように仕事の量・処理速度・熱量などを問う設問から構成されており、数値が大きいほど仕事の負担が大きい、すなわち不良であることを示している。
1位は「宿泊業、飲食サービス業」、2位「教育、学習支援業」、3位「卸売業、小売業」だった。
この分野で最も健康リスクが高かった「宿泊業、飲食サービス業」は、コロナ禍で大きなあおりを受けた業種の一つだが、行動制限の解除や、国による旅行支援施策など需要回復に向けた取り組みもあったことから、仕事量の増加を感じたのではないかと推察できる。
「仕事のコントロール」で最も健康リスクが高い業種は「医療、福祉」、次いで「運輸業、郵便業」
次に「仕事の負担・コントロール」のうち、「仕事のコントロール」リスクを業種ごとにランキング化したものが、「表6 業種別・仕事のコントロールランキング」だ。
表6
表6は、数値が小さいほど「仕事のコントロールがしづらい」を意味し、ストレスチェック設問のうち、次の3問への回答から導出する。
8. 自分のペースで仕事ができる
9. 自分で仕事の順番・やり方を決めることができる
10. 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる
仕事をする際に個人がどれくらい仕事をコントロールできるか、または、自分で決めた順序や方法でしてよいか、その自由度が問われており、コントロールが困難な業種ほど上位にランキングされている。
1位は「医療、福祉」、2位「運輸業、郵便業」、3位「製造業」という結果になった。1位の「医療、福祉」は、患者に対し医療行為を行ったり、施設の利用者から求められることに迅速に応じたりすること、次に続く「運輸業、郵便業」は時間通りの運行や配達が求められることなど、業務の性質上、仕事を進める際の自由度が低いことが考えられる。